夏空

□第18章
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「佐江ちゃん、私もするってば」
「何言ってるんだよ。玲奈は座ってろって」
「でも…」



何か言いたげな玲奈にともちんが言う。




「玲奈はいいのっ。その為にとも達が来てるんだって」
「そうそう。力仕事は任しとけ」




ともちんの横で筋肉を盛り上がらせる才加。











今日は引越しの日。


玲奈が退院して、リハビリと受験を頑張って…俺は仕事もだけど。

それから1年以上かけて準備して晴れて俺と玲奈は志望していた大学へ進学した。



色んな年齢や環境から進学していた人たちが集まる大学はかなり刺激的だった。
玲奈は女優になるという夢を裏方に回るほうへと方向転換。
文章を書く仕事をしたい、と言って大学では映画や舞台のサークルに脚本を書いたり演出をしていた。
その縁で今はライターや文筆に関わる仕事を紹介されてフリーでもやっていけそうな環境にある。




俺はと言えば、相変わらず…という訳でもないけど少し変化はあった。



前に打診されていて断った二号店。
今はその店の店長をしている。
大学では経営の方を専攻したのでそれが役立っているのはありがたい。





「それにしても」




やたらでかい棚を1人で軽々担いでいた才加が下ろしながら言う。




「松井さんはともかく、佐江が受験して一発合格するとはなあ」
「なんだよ、それ。高校時代は元々A判定まで行ってたんだぞ?」





ともちんはニヤッとする。





「つまりぃ、愛の力最強ってことでしょ?」




そのニヤリは玲奈にも届く。





「そ、それはっ…私はそうだけど…」





ちらっと俺の方を見る玲奈。
皆の目線が俺に集中する。





「あー…簡単に言うとそういうこと?…さ、早く片付けて引越しそばでも頼もうぜ」




皆の言葉をはぐらかすと





「ともはお蕎麦よりパスタがいいかも」
「引越しパスタ…?なんか板野さんが言うとお洒落かも」
「なんだそりゃ」





玲奈がともちんの呟きに感心しているのに突っ込むと





「ちょっと、玲奈?もう板野さんじゃないんだからさー」




ともちんがそう言うと




「あっ、そ、そうだったね!…秋元さん?」
「才加とかぶっちゃうけど…仕方ないか」
「夫婦でかぶるって…」





ともちんが不服そうに言う言葉に才加がショックを受けてるのを見て皆で笑う。






そう、才加とともちんは結婚したんだ。

才加が大学を卒業して就職して1年過ぎた頃のこと。
その頃にはもうともちんは「職場に通うのに近いから」と才加の家に転がり込んでいた。
ともちんはてっきりアパレル関係にでも行くのかな?と思っていたら美容関係だった。




「将来は分からないけど今の内に色々経験して資格を取って、子供作って育てて一段落したら自分でやれたらいいな」





そんなことをお祝いの席で言ってたっけ。

今は入籍だけだけど近いうちに披露宴をやるらしい。
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