夏空

□第13章
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「わーっ、空気悪っ。ほら、窓でも開けんと」


シャッという音と共にカーテンを開ける。
まだ夏真っ盛り。
強い陽射しに部屋の温度が少し上がった気がする。


「あー、洗濯たまってるし、ろくにご飯も食べてへんのやろ?あかんあかん、倒れてしまうわ」


あちこちに散らばっている洗濯物を拾う。


「シャワー浴びんと臭くなるで?不潔な男は嫌われるからなー」


洗濯機に放り込む。
一杯になったので洗濯を始める。

よし、それから…。


「あんたもシャワー浴びてくるんや。せっかく綺麗な服を着ても台無しやで」
「別にいいよ…」



やっと喋ってくれた。
ちょっと進歩。



「良くないわ!ほらほら。そんなんやったら…」


玲奈からも嫌われるで。

その言葉を飲み込んだ。
佐江は玲奈の家族からもう来ないで欲しいと言われたらしい。
それ以来、うちも病院から遠ざかってしまった。



自分の左手を見る。
あの日。指輪を買ってもらった日。
佐江を引き止めなければ…。

病院で佐江は自分を責めていた。
俺が行くのが遅れなければ。
時間に間に合っていれば玲奈は…。
そう言って何度も何度も廊下に頭を叩きつけて土下座をしていた。

違う、佐江のせいやないよ。
うちがこの指輪を買ってってせがんだから…。

そんなことは言えへん。
ただ黙って左手の指輪をそっと隠した。



























絶望的かもしれないと言われた玲奈は奇跡的に助かった。
皆で大喜びして、目が覚めるのを待った。
すぐには目を覚まさなかったけどその内意識も戻るはず。
佐江は毎日玲奈に会い続けていた。


「玲奈が目を覚ました時に俺がいなかったら寂しいって思うかもしれないだろ?」


佐江にいつもの笑顔が戻ってきた。
それで良かった。
佐江はいつだって元気で明るくてちょっとお馬鹿。
だけど実は頼り甲斐もあるし優しい人。
そんな佐江をずっと見ていたかったから。

玲奈だって親友やから命が助かったと聞いて嬉しくない訳はなかった。
佐江と一緒にお見舞いに行ったり、秋元くんや板野さんとも。
時折1人で行く事もあった。



そんなときは帰り際にやっぱりこう言った。

「玲奈、早く起きんと佐江が寂しがるで」

って。
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