夏空

□第12章
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今日も同じ場所へと向かう。

足取りは重い…けど、部屋に入ったらそんなことは顔には出せない。

だってそこには私の大好きな人がいるから。




ノックをすると、その部屋の主からは返事はない。

その代わりにお母さんからの声が聞こえる。


「どうぞ」


部屋に入る前に表情を決める。


「やっほー!お姉ちゃん?」


思い切り元気に。そして笑顔で。

お姉ちゃんは返事をしない。

お母さんが代わりにニコニコとお姉ちゃんに話しかける。


「玲奈?ほら、珠理奈が来てくれたわよ。良かったね」






あれから1週間は経っている。

お姉ちゃんはずっと眠っている。

あれから…あの悪夢のような事故の起きた日から。

あまりにも出血がひどかったことで最悪の場合を考えていてください、と言われていた。

だけど奇跡的に手術は成功!

私たち家族は涙を流して喜んだ。

もちろん…お兄ちゃんも。







私たちが病院へ到着した時、お兄ちゃんはただ椅子に座ってぼんやりとしていた。

そして私と両親がお兄ちゃんに声をかけると、



「すみませんでした!」



そう叫んで病院の廊下で土下座した。

一体何が起こったのか分からなくて戸惑っている私たちにお兄ちゃんはずっと叫び続けた。


「すみませんでした…すみませんでした…俺のせいです…」


お父さんがお兄ちゃんを抱えて立ち上がらせても、



「すみませんでした…俺の…せいです…」


それしか言わず、ただただ泣いていた。

事情が飲み込めない私も、その姿に自然と涙が流れていた…。






その後は私たち家族、お兄ちゃん、そして秋元さんや板野さん…あの人も手術が終わるのを待っていた。


何時間が経った頃だろう。

やっと手術が終わった。




暫く経って主治医の篠田先生に呼ばれた私たち家族は希望を抱いた。

お姉ちゃんの手術は成功した。

これは奇跡なんだ、と。



家族で皆抱き合って泣いて喜んだ。

そして廊下に戻るとお兄ちゃんが駆け寄ってきた。


「あ、あのっ!玲奈は…玲奈の容態は!?」


するとお父さんが涙を浮かべてお兄ちゃんの肩に手を置いた。



「手術は、成功したそうだ」

「…ほっ、本当ですか!?…良かった…良かった…」



お兄ちゃんはずるずるとそのまま廊下に膝をついた。

私もしゃがんで、お兄ちゃんに自然と抱きついていた。



「うん…良かったね…良かった…」

「珠理奈ちゃん…」



2人で抱き合った。

これからお姉ちゃんを支えていこうねって心の中で呼びかけていた。
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