夏空

□第8章
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バイト先へ電話をした。

本当はランチタイムから入る予定だったけど…。

無理なところをお願いしてディナーからの入りにしてもらった。



「…店長、本当にすみません。急に」

“いやいや、大丈夫!宮澤くんにはこちらこそ無理を聞いてもらってるからね。親戚の方、お大事にね”

「はい…ありがとうございます」



電話を切って、出かける用意をする。

あれからもう一度留守電を聞いた。

間違いなく珠理奈ちゃんの声だった。

昔はもっとうるさい感じで喋る声だったけど、かなり落ち着いてたな。




…そりゃそうだろ。

自分の家族が、たった一人の姉があんなことになったんだ。

環境的にも絶対に心から笑えないような日々が続いていたんだと思う。




そして…。

俺は逃げ出したんだ。



ぎゅっと目を閉じる。

























ちょうど3年前の暑い日。

玲奈の誕生日。

どこをどうやって病院へ行ったのか、覚えてない。

もしかしたら俺が玲奈の関係者だと分かってパトカーで送られたのかもしれない。




そして大きな病院へやってきて、引っ張られた。

玲奈の事を聞かれて自宅の連絡先を言ったんだろう。

他に知り合いがいれば、と言われて才加とともちんに連絡したんだろう。


ああ、そうだ。

彩にももちろん連絡した。

なんて言ったか覚えてない。




皆が駆けつけてきた。




「佐江!?おい、大丈夫か!?」


才加の声が聞こえた気がする。

ともちんが何か言ったような気がする。

何を見たのか覚えてない。

きっと顔を上げてないから。



「さ、佐江…玲奈は?」



彩の声も聞こえていた気がする。

恐らくあれからそのままこちらへ来たんだろうな。

その声の方向を見ると、まだギターケースを担いだままだった。

何故か彩にあげたばかりの銀の指輪に目が行った。






そして遠くから更にバタバタと足音が聞こえた。



「はあっ…!はあ、お、お兄ちゃんっ!」

「珠理奈ちゃん…」



珠理奈ちゃんは息切れしながら、俺のところに飛び込んできた。

そしてしがみついて叫んだ。



「お姉ちゃんは!?ねえ、お姉ちゃんはどうしたの!?」

「俺、待ち合わせしてて…」

「お姉ちゃんはどうしたの!?教えてよっ!」




珠理奈ちゃんは俺の言葉なんて待ってない。

叫びながら涙を流しながら俺に両手を掴んで揺さぶった。




そして…向こうから更に人影が。
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