夏空

□第2章
1ページ/10ページ




「さーえーちゃーん」


無視。


「さーえーちゃ〜〜〜〜ん?」


無視。



「こらっ!佐江!起きんかい!」


ボカッ!



「いでええええっ!何するんだよっ!しゃくれ顎!」

「何やてぇえ?!せっかく人が優しく呼んどるのに無視するからやっ!」



目の前のしゃくれ顎の女子は腕組みして目を吊り上げてるんですが…。

これのどこが優しくなのか、俺が分かるように説明していただきたい。



「ま、それはそうと…」



俺の隣の椅子に座ってつついてくる。



「何だよ。顎でつつくなよ」

「何が顎やねん!これは指やっ!…なあ、話が進まへんやろ?」



うん、俺も段々と疲れてきた。

角度を変えて山本に向き直る。



「で?何?」

「なんや、つれないなあー。聞いたで?」

「何を?誰から?」

「せやからぁー、玲奈や!昨日喜びの電話があったで?」

「あー…」

「いやいやー、まさか佐江が玲奈と付き合ってくれるとはなぁ…」

「山本?俺はお前に聞きたいことは山ほどある」

「な、何や?…スリーサイズは乙女の秘密やで…?」

「顔を赤らめて言うなっ!…お前、松井さんのこと知ってたんだろ?」




山本は決まりが悪そうに視線を泳がす。

溜め息しか出ないんだけど…。



「はあ…それであんなに一生懸命松井さんを紹介してたのか?おかしいと思ったんだよ…」



それを考えるとカラオケに来たこと、夏祭りのこと、色んなことが納得できる。

ずっと俺と話さなかったのも緊張してたからだろうなとか。

カラオケで歌を止めたのも俺が聞いてると思うと恥ずかしいからかなとか。



おまけに…。



「?なんやねん?」

「いや…」




さすがにあの日、校舎裏のサボりスポットに呼び出された理由を勘違いしてたとは言えない。

こんなことを言ったら最後。




「はぁ!?なんでうちがあんたなんかに…そんなん妄想するのも100年早いわっ!」



…なーんて言われて笑われるに違いない。



「何でもないでーす。寝まーす」

「こらっ!話を聞けや!」

「もう寝てまーす」

「えーいっ!こうしてやるっ!」

「…あははっ!わはは!こ、こら!くすぐるなっ!ぎゃはは!」

「あはは!佐江は敏感やなぁー!」



…恐らく松井さんとはこんな付き合いが出来るようになるには何年も必要なんだろうなぁ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ