夏空
□第1章
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「なあ、佐江?そろそろ授業が始まるぞ?」
んー?
さっきから生返事ばかりしている俺に付き合ってくれている心友・才加。
とにかく真面目だし頭がいいし責任感が強い。
何よりもこんな俺に心配しつつもこうして付き合ってくれているいい奴だ。
「いやあ、だって気持ちいいじゃん?ここの丘は本当に見晴らしもいいしサエコーだよなあ」
「それを言うなら最高だろ…」
呆れつつもしっかり突っ込みを入れてくれる。
うん、本当にいい奴。
俺たちは高校三年生。いわゆる受験生。
ここはそこそこレベルの高い進学校。
そして殆どの卒業生がその上の大学へと進学する。
文武両道に秀でる、というのが校訓の我が高校は勉強を頑張るか、スポーツの特待などを受け大学へと進学するのが二大パターン。
俺はと言えば…
「なあ、本当にそろそろ教室に戻らないと授業が始まるぞ。お前、遊んでいられる身分じゃないはずだがな?」
「ぐっ…」
痛いところをついてくる。
確かに俺は平凡を絵に描いたような男で、勉強も運動もそこそこってところ。
才加は頭がいい方で大学進学も特に心配のないレベル。
「じゃあお前は先に教室戻ってろよ。愛しいともちんが恋しがってるぞ」
「いや、その、友美は関係ないだろ?」
才加には友美という彼女がいる。
彼女と言うか押しかけ女房みたいな?
ただ才加と進学するにはちょ〜っと勉強しないといけないとか。
恐らく俺とほぼ同じくらいのレベルと推測。
しかし何度かやり取りするとぶつくさ言いながら才加は教室に帰っていった。
何かやりたいことがあるわけでも夢があるわけでもない。
結構なレベルのこの高校に受かったのは奇跡的なものだった。
中学時代は才加と一緒の学校でバスケに明け暮れ、高校でも一緒にやろう!と頑張って受験勉強した賜物だった。
その努力した部分を知っているだけに才加も何かと口を出したくなるんだろうな。
勉強も段々とついていけなくなり、バスケも…
才加は俺がバスケをしなくなっても何も言わずに関係性も変わることはなかった。
「俺も彼女とか出来たら少しは『頑張ろう!』って思えるのかな」
そんな独り言が思わず口から出た時だった。