こいのうた

□第九章
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「おい、佐江―。授業終わったぞー」

『んにゃ?…ぐう』

「部室に先に行ってるぞ?」

『うんん…ぐう』

「大丈夫かな…」

「大丈夫だろ。さっ、いっくぜー!」



優子と才加の声が聞こえて…いや、聞こえなくなった。



「なあ、佐江ちゃん。置いていくで?」


みるきーの声に『大丈夫…むにゃ』と答えた気がする。

ゆきりんが「遅れないようにね?」と心配そうに声をかけて…静かになった。




携帯を見るともうちょっとゆっくり出来そう。

普段は結構急いで部室へ行ってウォーミングアップとかするから。





うう…眠い…。

もう一度突っ伏すと、


「えいっ!」

『おうっ!…あ』



誰かに頭をカツンと軽く叩かれた。

気配がなくてびっくりした…。



『あっちゃん…どうしたの?』

「どうしたはこっちだよ?また部活見学行こうと思ったのに佐江はここにいるし」

『あはは…もうちょっとゆっくり出来るからと思って寝てたんだ』

「夜更かししたんでしょ?」




あっちゃんが悪戯っぽい顔で俺を見る。

そうなんだ、昨日はついつい面白い動画を見つけてしまってずっと見ていた。



それを言うと


「分かった!…エッチな動画?」

『ちっ、違うって!男がそういうのばかり見ると思ったら大間違いだぞ?』

「ふふっ、佐江って見た目は大人っぽいのに喋り方が可愛いよね」



何だかとっても居心地悪い。

本当は楽しいはずなんだけど。



「ん?もう行くの?」

『いや、まだ時間はあるけど…たかみなは?』

「あのさ、佐江」

『え?』

「私と会ったらたかみなのことを聞かなきゃいけないルールあるの?」

『そ、そういうことじゃないけど…』



そうなんです。実はルールがあるんです。

それは言えないけど。




「別に佐江に会いたくても待っててもいいよね?」

『だってたかみなが悲しまないかな…』

「全然気付いてないよ?私がたまにいても”今日は待っててくれたんスね!”って無邪気だもん」

『鈍いやつだ…』

「だからいいの。ねえ、ちょっとお喋りしようよ」

『はあ…うん』



むっくり起き上がると、あっちゃんが「あれ?」と言う。



「佐江、それ外れかかってる?」



言われて見てみると、ワイシャツのボタンがぶらぶらしてた。
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