こいのうた

□第八章
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『ただいまー…』

「あ、おかえり!あのね、明日のご飯なんだけど…」

『大丈夫、俺が作るよ』

「そう?ごめんなさいね、お母さんが毎週末いないから…」

『それは仕方ないし今更だから謝らないでよ』



部活で汚れたユニフォームなんかを洗濯するついでに風呂に入る。


汗と汚れを流して、部屋着に着替えるとリビングへ戻った。



「じゃあ…明日もまた朝から行ってくるからお願いね?」

『うん。あのさ、本当にご飯とか洗濯とか気にしなくていいよ?掃除も好きだしさ』

「…ありがとう。佐江が色々気がついてくれて助かるわ…」



そうだ。

ふと思い出して自分の部屋へ急ぐ。

そして思い出したものを取ってきて母親に渡す。




『これ、玲奈に渡してくれる?』

「ああ、一番喜ぶものね?」

『いや、ただの手紙だけど…』

「ふふふ、玲奈はお兄ちゃんからの手紙が一番嬉しいのよ」

『メールの方がすぐ届くのに…』



この会話もずっと何回もした会話。

だけど玲奈が手紙をすごく大事にしているのは知っている。





あれはいつだったか、玲奈がお父さんとお母さんの友達であるおばさんと文通していたっけ。

今もしているらしいけど、それと同じように俺とも手紙でやり取りしたいらしい。




「玲奈が言ってるでしょ?待ってる時間が楽しいし、考えてる時間も楽しいって」

『そういうもんかな…』




お母さんは玲奈の洗濯物を畳んでバッグに入れている。



「あ、そうそう。今度写真が欲しいって」

『だからメールの方がいいのに…』

「病室に飾りたいんじゃない?携帯で撮ったのでいいからプリントしておいてね」

『わかった…』






そして思った。



『あのさ、やっぱり俺もお見舞いとか…』

「でもねえ…玲奈が最近嫌がるから」

『それがわかんないんだよなぁ』





最初の頃は毎週俺も一緒にお見舞いに行った。

玲奈はすっごい喜んでくれた。

だけど暫くするとちょっと嫌がるようになった。

理由を聞いたけど…なんか納得出来ない。






「玲奈も女の子なのよ?」

『分かってるよぉ』



理由としては…「毎日絶対にお風呂に入れるわけじゃないから」だった。

なんで?別にいいよ、俺はって言ったけど「駄目!」って言われた…。






だからもう長い事玲奈に会ってない。

電話では声を聞いたりするけど、暫く聞かないと何だかちょっと大人っぽくなった気がする。




「そりゃそうよ。もうすぐ中学生なんだもの」

『だよなあ…』




俺は玲奈が遠くに入院してから部活に入った。

そして来年からは高校生になる。
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