こいのうた

□第六章
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「お待たせ!…佐江ちゃん、早かったね?ごめんなさい、待たせちゃって」

『ああ、いや、全然待ってないよ』



ゆきりんは随分遠くから走ってきたみたいだった…けど、正直言うと走っていると言うか…。

うん、あれは上半身は急いでるけど下半身はすごく遅かった。

ただ俺が待っているのが見えたから頑張ったんだろうな。



それにしても…。




『ゆきりんって私服が何と言うか…』

「地味?」

『い、いや!渋いよね?あはは…俺なんか派手でピエロみたいとか夏休みの小学生みたいとか言われてるし…』

「そう?でも今日は何だか落ち着いてるよね?その…かっこいいよ?」

『え…そ、そう?』

「いつでもかっこいいけど…うふふ」

『えへへ…』



何だかすごい褒められてる!

しかも服装を!

ああ、何かすごく気分がいいぞ。




「あっ、もうそろそろ行こうか?」

『そうだなあ。時間には余裕あるけど…行くか』




この前、ゆきりんからメールが来ていた。

今度遊びに行こうって。

女の子と2人で遊ぶなんてあまりないからなあ。



だから「映画を見たい」って言われてちょっと安心した。

後は近くでご飯でも食べればいいかな。

小学校の頃は遊ぶとしても家とか外で遊んだり…。

中学になってからは…。



あっちゃんの笑顔が浮かぶ。

ぎゅっ。思わずシャツの胸を握り締める。




「佐江ちゃん?どうしたの?気分悪い?」

『いや、何でもないよ。よし、競走するか!』

「ええええっ!む、無理無理!!」

『あはは!冗談だよっ』




あっちゃんのことを考えるのはやめよう。

今日はゆきりんがわざわざ誘ってくれたんだから。

ゆきりんはおとなしいようでいて、結構積極的だ。

おまけに話も上手と言うか、お喋りしてて楽しい。

なんだ、結構俺たちは気が合うのかな。




「ねえ、佐江ちゃん、パンフレットとか買う?」

『いや、俺はいいよ。見たいなら売店行く?』



そんな会話をしながらリアクションをとるゆきりんは見てて面白い。

見た目だって可愛いし、背が高くて俺とはちょうどいいくらいなのかな。

にゃんにゃんも同じくらい背が高いけど。





チケットを買う時に2人分出したらゆきりんが慌てて止める。




「だ、駄目だよ!私が誘ったのに」

『いや、女の子と映画に行くって言ったら親からお金もらっちゃったからさ』




昨日両親に話したら何故か2人とも張り切っていた。

お父さんなんか「女の子に負担かけるなよ!」ってお金をくれた。

玲奈は「いいなあ…お兄ちゃんと映画行きたいなあ」って言ってたから今度見たい映画に連れて行く約束をした。
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