こいのうた

□第一章
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佐江は妹が大嫌いだった。

子供の頃から勉強は苦手だったけど、運動は大得意。







『ねっ!見て見て!ほら!学校のマラソン大会で優勝したよ!』

「まあ、すごいわね!」

「おお、すごいなあ、佐江!さすがお父さん達の子供だな」

『えへへ…』








褒められて佐江は有頂天。

両親が笑顔で褒めてくれるのが嬉しくて仕方ない。








でも…。







「…ゴホゴホッ」

「玲奈?大丈夫?」

「また咳がひどいな…病院に連れて行くか?」

「ううん、ひとまず薬で対応していいって言われたんだけど…」

「だけどなあ…何かあったら大変だからな…」









ほら。すぐこうなる。

佐江がどんなに頑張ってきても妹がすぐにお父さんとお母さんを取っちゃうんだ。





さっきまで佐江が頑張って取ってきた賞状とメダルをニコニコして見ていたお父さんとお母さん。

今は妹につきっきり。

テーブルの上には賞状とメダルが置いてある。

我慢出来なくなって外に飛び出す。











『妹なんか…玲奈なんか大嫌いだ』








佐江からお父さんもお母さんも取っていく妹なんか要らない。

外に飛び出したけど行くところなんか決めてない。

一緒に遊ぶ友達の家にとりあえず行くことにした。
















いつものこと。

お父さんはいつも土日は家にいてくれるけど遊びに行くことはないんだ。

それもこれも玲奈が体が弱いから。

だから人が多いところは…とか、あまり遠くは…って言われる。








「佐江はお兄ちゃんだから我慢してくれるわよね?」







お母さんにそう言われたら何も言えないじゃん。

お兄ちゃんだから。妹だから。

妹が欲しいなんて言った事もないよ。







なんで全部我慢しないといけないんだろ。

頭にきて、悔しくなって…そして悲しくなる。

誰もいないところで1人で涙を流す。

これもいつものことだった。
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