銀の花

□第十章『すれ違い』
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「…くん?」

『…』

「おーい?宮澤くん?やんなあ?」

『…あっ、な、何ですか?!…って、彩ちゃん…』

「どうしたん?考え事?さっきから呼びかけてたけど反応なかったで?」



彩ちゃんは俺の顔の前に手をひらひらさせている。

いけないなあ…バイト中じゃないから良かったけど。



休憩中、TV局の通路でぼーっとしてしまった。




『あー、ごめん…本当に考え事してたみたいで気付かなくて…』

「いや、ええけど…あの、この前はその…」

『この前?』

「…宮澤くんの部屋で…」



彩ちゃんが周りを気にしながら小さい声で話す。



『…あ』

「ほんまに変なこと言ってしまってごめん…」

『いや、ええと』




気にしてないよ。これはダメだ。

忘れてた。これはもっとダメだ。

ああいうのやめてくれる?いやいや…。




『ううん…その、俺もあんなものを置いちゃってて…ご、ごめんね?』

「う、ううん…私も悪乗りしてしまったかな…」



苦笑いの彩ちゃんの真意はわからない。

冗談ぽくして何事もなかったかのようにしてくれているのか…。




「でも…」




彩ちゃんが周りを見回して誰もいないのを確認する。



「また…家に行ってもええかな…?」



小声でそう言われてドキッとする。

彩ちゃんの目は本当に綺麗できらきらしている。





由紀とは正反対のタイプだと思うけど、芯が通っているところは似てるかも。

今日の彩ちゃんは返事に困ることばかり言う。

積極的に呼ぶのもどうかと思うけど、断るのも…ダメなのか?

でもこのまま黙っていたら彩ちゃんは普段の会話のトーンだと、



「あー、ごめんごめん、困らせたよなあ」



とか言ってなかったことにしてくれる。

だけど今日は違うようだ。



「ダメかな…?また宮澤くんと2人で話したい」

『彩ちゃん…俺…』





するとそこに聞いたことがある声が聞こえる。



「仲良さそうですねぇ?お2人さん」



びくっとして離れる。



『…なんだ。誰かと思ったら…』

「なんだとは何?聞き捨てならないなあ」

「あ、し、篠田さん…ご無沙汰してます…」



彩ちゃんがペコッと頭を下げる。

ニヤニヤしながら姿勢良く立っているのは由紀のマネージャー…篠田さんだった。

この人はタイミングがいいのか、悪いのか。
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