ワンモアタイム

□最終話 『生』
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大好きだった名前が死んでしまった。





それからの私は無気力に生きてきた。

高校時代も無事に卒業できたのが不思議なくらい。

まわりはみんな泣いていた。

玲奈ちゃん、珠理奈、ちゅり…他にもたくさん。





私だけが涙が出ない。

…私が名前の手を握り締めている間に…命が消えていくのを感じた。

幸せになれとか、笑顔を見せろとか…。







『勝手なことばっかり言ってさ…名前の馬鹿…』






私を庇って死んだようなものなのに、名前のご両親は何も責めなかった。

いっそ責めてくれたら良かったのにと涙がただただ溢れた。






お葬式の日は殆ど覚えて無くて、血だらけだった名前は綺麗にされていた。

皆が、特に玲奈ちゃんが号泣していて棺にすがりついているのをぼんやり見ていた。




あの事故の日。

目の前で死んでしまったあの日に私は涙を置いてきたみたいに。




進学を決めていたけど、もちろん勉強なんかに集中できるはずが無く。

高校を卒業してからは、部屋に閉じこもって、たまに外出したらあの道か、公園に来ていた。










あの日…名前は「高台で話そう」と言っていた。

一体何を話そうとしたのかな。






あの不思議な体験は誰にも話していない。

ひょっとしたら夢じゃないかと思う事だってある。

だけど、現に、目の前で名前が持っていたのは私が持っているものと同じもの。

手のひらに転がしてみる。

ぎゅっと握り締める。




多分だけど、名前はそれを私に預けるつもりだったんだと思う。

でも、私の手に触れる前に消えてしまった…。

それを見た瞬間に名前が何かを感じて、私も同じことを感じてしまった。

消えないで。その思いは虚しくて…。









いつだって名前のことばかり考えていた。

そして思い出しては泣いていた。









ある日、いつものように出かけた。








『名前が…死んだ場所…』








暫くはお花が供えられていたけど、やがてそれはお墓の前に変わり、その道には何もない。

ただ、私の感じた、名前の最後の記憶だけがそこに…。








『名前…もう…戻ってきてくれないの?』









もしかしたら…名前の話を思い出す。




そこに行けば…同じように私も会えるのかな…。

車道に一歩踏み出そうとした。
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