ワンモアタイム
□第1話 『死』
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親友の久美が死んでしまった。
しかも私と喧嘩したその日の夕方だった。
きっかけは大した事じゃない。
いつもだったら一緒に帰る放課後、喧嘩して意地を張り合って、謝るきっかけをなくした。
それだけならいつもと同じ事。
だけど違ったのは…
1人帰っていた久美は何かを落としたらしい。
車道まで転がったそれを拾おうとして…避けきれなかった車に跳ねられてしまった。
連絡を受けて病院に行くと、もう久美は既にこの世の人ではなかった。
あまりにもショックが強すぎて、涙も出ないし何も考えられず呆然と立ち尽くした私の前には…
事故で死んだとは思えないくらいに綺麗にされた、久美の横たわる姿があった。
「名前ちゃん」
名前を呼ばれた気がして、振り向くと目を真っ赤にした、久美のお母さんがいた。
そしてハンカチで大事そうに包まれた小さな物を私の目の前に差し出した。
『これは…』
「久美ね、これを拾おうとして車道に下りたらしいの。ずっと掴んでて離さなかったみたいなの」
震える指先でそっとそれを手に取った。
「あなたが代わりに持っててあげてくれる?」
久美のお母さんの言葉を聞き終わる前に涙があふれてきた。
前に遊びに行った時に一緒に撮ったプリクラは…
もう色あせていたのに、彼女はそれをキーホルダーにして付けていたらしい。
喧嘩したのに。謝りもしなかったのに。
『こんな…』
こんなもののために久美は命を落としたのか…。
どうして謝らなかったんだろう…。
どうして…
好きだと言えなかったんだろう。