短編集A
□恋におちた<前編>
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妄想好きな私がずっと憧れていたこと。
大好きな人に笑顔で手を差し伸べられて、その手を握ると連れ出してくれること。
背が高くて爽やかで白いシャツが似合って…
そんな憧れの王子様との出会いなんかあるわけがない。
今だってそう。
私はすっごくおとなしくて目立つことなんてない。
悪い言い方をすると地味すぎる。
そして憧れのあの人は…。
「宮澤先輩―!」
「宮澤くん、好きぃ!」
「いやあああっ、素敵よぉおお!」
「死ねるぅ!萌え死ねるぅ!」
…尋常じゃない人気者。
私より1年先輩で、ルックスが良くて、優しくて運動神経抜群。
私は運動神経なんてどこに置いてきたの?と言うくらい運動音痴。
それだけでも憧れる対象。
恋愛は妄想だけのもので、現実に私の前に現われるわけがない。
そんな私の妄想上の相手は…宮澤先輩。
徒競走やリレーにも借り出されるし、全てトップクラスの成績で男女共に人気者。
特に決まった彼女はいないみたいけど、前に噂があった人とは既に別れたと言う噂。
…誰かいたとしても、現実には全く関係がないんだけどね。
今度は借り物競走かー-…。
友達と一緒に単に応援するだけ。
すると何故か歓声が…いや、悲鳴?嬌声?
何か分からないけどまるで怒号のような声が…。
「ひ、ひいいっ!こ、こっちに来るよぉお!」
「み、宮澤先輩!?」
『え?』
よくよく見てみると…宮澤先輩がこちらにやってきてる。
いや、一直線じゃないけど…どうやらあちこち見てまわっているみたい。
「借り物競走だよね?な、何を探してるのかな?!」
「も、もしかしたら可愛い女の子とか!?」
「いやいや、ひょ、ひょっとしたら、す、好きなタイプの女子とか!」
「いやあああ、選ばれたら死んでもいいよぉおお!」
皆が騒いでる中、私は黙って宮澤先輩を見つめる。
どうせ私には関係がない。
学校一の人気者を近くで眺められる機会を堪能していた。