明けない夜が明ける頃

□第5話
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「先生!松井先生!今度の土曜とか暇じゃないですか?」

『いや、あの…松井さん?』

「同じ松井で紛らわしいですよ?珠理奈って呼んでください!」

『いえ、今は教師なので』

「…じゃあ、研修期間が終わったら会ってくれますか?」

『え?それは…』

「今が無理ならその後は駄目ですか?」







本当に松井さんはグイグイ来るので戸惑ってしまう。

佐江ちゃんも積極的なんだけど、ちょっと違うタイプかな。

松井さんは無邪気な感じで子供っぽい感じ。

佐江ちゃんは大人っぽくて頼れる感じ。









「…玲奈は騙されてるし」

『え?そうなの?』




また学校の帰りに佐江ちゃんの家にいる私は、ご飯の後にまったりと過ごしている。

松井さんの話をすると途端に不機嫌そう。







「珠理奈のやり方だよ。人懐っこい笑顔で取り入って…ってパターン」

『そうなんだ…佐江ちゃんのやり方は大人っぽく取り入るんですかー?』

「な、なんで佐江の話にっ!…もう過去のことだよ。でも珠理奈は遊び人だから…」

『佐江ちゃんだって遊んでいたくせに…』

「うっ、そうだけど…でも、今は玲奈一筋だから!」








佐江ちゃんは唇を尖らせてこっちをチラッと見る。








「珠理奈に興味が出てきた?」

『え?全然ないよ?元々、私って惚れっぽくないし…』

「そうだったの?」

『うん。佐江ちゃんと出会ってこんなに恋愛にハマると思わなかった、ってはーちゃんにも言われたくらい』

「そうかあ…へへっ」







佐江ちゃんは本当に素直。

悪い言い方をすれば単純、かもしれないけど…。



でも嫉妬されたりするのは愛されてるって実感するし、何か言うとすぐにご機嫌に戻るのも可愛いと思う。

そしてご機嫌になると、自然に手を繋いだり肩を抱いたりしてくれる。

そんな素直で純粋な佐江ちゃんと一緒にいると、私も素直でいいんだって思わせてくれるの。

駆け引きとかはなくて、嬉しい時は嬉しい、悲しい時は悲しいって言っていいよって。








「玲奈は綺麗だね」








そう言って顔を近づけられると恥ずかしいけどすごく嬉しい。

自分に自信がないけど、そうやって知らずに私が胸を張っていいって言うことを教えてくれる人。




佐江ちゃんは体を求めると言うより、私の心や想いを求めてくれる。


そして、私が佐江ちゃんとくっつきたいって思うとしっかり受け止めてくれる。




こんな人が現われるなんて思わなかったんだからね?



だから、他の人に興味なんて持つわけがないじゃない。



そんな気持ちを態度に込める。
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