電照菊
□高校生時代A
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お祭りの日は毎年浴衣を着て、髪をアップにする。
子供の頃からの恒例行事で、私はお母さんに任せていた自分の着付けも出来るようになっていた。
「昔の浴衣が出てきて、明日香も大きくなったな〜ってお母さん思っちゃった」
『そうだよねー。すっごい可愛くて小さくてこれ着ていたんだってびっくり』
「その内成人式の着物を着て、次はお嫁さんの着物かしら?」
『お、お嫁さん?』
「だってもう高校生になったんだからね。これからの成長は早いわよ?」
そうお母さんに言われると不思議な気がする。
そしてお嫁さんって言われるとすぐに浮かぶのは彼の笑顔。
「そしてもうすぐ佐江ちゃんからご挨拶があるのかしらね…“明日香さんを僕にください!”って…うふふっ」
『ちょ、ちょっと!気が早いよ!お母さん!』
自分の世界に入りそうなお母さんを現実に引き戻す。
「でもね。お父さんは怖い顔をしているけど、佐江ちゃんなら大丈夫と思うわよ」
『そうなの?いつも佐江ちゃんの話をすると昔から嫌な顔してない?』
「お父さんはいつもあんな顔だから気にしないでいいのよ」
よく考えたら失礼な発言のような…でも本当に許してくれるのかな?
「農家のお嫁さんって大変と思うけど、明日香も昔から手伝っているし、向こうのご家族も本当にいい人たちだしね」
『手伝っているって言うほどでもないけど…ぽっくんの家族の皆さんの事は確かに大好きだよ』
ぽっくんも昔から手伝っていて、将来は菊栽培をもっと勉強して後を継ぐって言っている。
そして私も一緒にいる内に、たまにお手伝いをしている内にあれこれと分かるようにはなった。
このまま高校を出て、ぽっくんのお仕事を手伝いながら、結婚して、子供が出来て、家族として菊を育てて。
人によってはすごく退屈な決まった人生かもしれない。
でも私にはとっても希望に満ちた幸せな人生のような気がした。
昔からずっと一緒だったぽっくんは本当に優しくてかっこよくて働き者で申し分のない人だもの。
そして子供の頃から一緒なのはぽっくんの家族の皆さんもそう。
お兄ちゃん達は外に出ちゃってて、きっと家業は継ぐ事は出来ない。
だから、向こうのご両親たちも
「明日香ちゃんが佐江の嫁になってくれるなら将来安泰だね」
って言ってくれる。
その言葉がすごくすごく嬉しくて。
それを言われて「そ、そんなことを明日香の前で言うなよ!!」って照れてるぽっくんを見るのも楽しい。
将来何をしたいとか明確に考えたことなかったけど…これがきっと私が思う最高のビジョンなんだと思う。
「今日も佐江ちゃんがお迎えに来てくれるんでしょ?」
『うん。4人で行くんだけど、陽菜ちゃんたちとはもうちょっと先で待ち合わせなの』
「そろそろ来るんなら未来の旦那様にご挨拶しなきゃね。うふふ」
『そういうのはいいからーーー!!』
そんなことをお母さんと話していると、玄関の呼び鈴が鳴った。