夏空

□第16章
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今日は珍しく待ち合わせ。
そして珍しく早く来た。




「…え!嘘、佐江が先に来てる」
「よっ、たまにはね」




今日は彩と待ち合わせして久々にデートをすることにした。
時間に生真面目な彩はいつも俺よりも早く来る。



「びっくりしたわ…今日遅かったっけ?て動揺した」
「動揺させてごめん。たまにはいいかなって」
「別に佐江が遅い訳やないねんけど…気を使わせた?」
「言ったろ?たまにはって思ったんだよ」







2人で歩き出すとすぐ近くにあるレストランへ。






「え?ここって」
「前に彩が行きたいなーって言ってただろ?」
「そうやけど…」
「もしかして誰かともう行っちゃった?」
「ううん。佐江と一緒に行きたいなって思ってたから…」





彩はそう言うとテレ笑いする。
俺もそれを見ると嬉しくなる。





「じゃあ早速入ろう。俺、お腹空いた」
「ふふっ、そうやな。私も」











2人で店内に入る。


こんなゆっくりした時間は初めてだ。
食べたい物を注文して、彩はいつもより饒舌だ。

最近こんな事があった、こんな人がいた。
あまり愚痴や不満は言わないけど、あれこれを面白おかしく話してくれる。
俺も話してお互いに笑う。

こんな時間がどうして作れなかったんだろう。
俺にとっては本当に過ぎた彼女なのに何を不安に思ったりしていたんだろう。




「佐江」
「ん?」
「何か話したい事があった?」
「いや。彩と久々にデートしたかったんだ」
「ほんまに?」
「うん。色々な事を考えた結果、そうなるんだけどね」
「その色々は何やねん…」



いつの間にか彩が俺の手に触れている。
俺もそれを握り返す。




「この前さ、玲奈に海に行きたいって言われたんだ」
「海って病院の裏の?」
「そう。実は付き合っていた頃に一緒に行ったことがあってさ。それでだと思う」
「そうなんや…」
「玲奈から何か話があるんだと思う」
「…見当ついてるん?」
「分からない。けど玲奈は病院の中にいて先に進もうとしてるんだろうな」




俺はたくさんの自由があるのにモタモタしてる。




「それで色々と頑張ろうと思ったとか?」
「まあ…そうなのかな。俺ものらりくらりじゃいけないからさ」
「自分で分かってるんやったら何も言う事ないわ」
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