夏空

□第8章
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あれだけの出血だから俺だって半分は覚悟していた。

だけど手術は大成功だった。

皆で手を取り合って大喜びしたよ。

だって死んでもおかしくない大怪我なのに命を取りとめたんだ。









…だけど、玲奈は命があるだけだった。

次の日になっても目が覚めない、

そりゃそうだよな。あんなに大変な思いをしたんだ。

まだまだ体が疲れてるんだよな。

そう思っていた。






玲奈のお母さんは毎日髪をとかしたり、マッサージしたり。

俺も毎日見舞いに行った。

珠理奈ちゃんもよく来てて二人で馬鹿話をしながら玲奈の目覚めを待ってたんだ。




だけど玲奈は目を覚まさない。


1週間経過した。1ヶ月経過した。

玲奈…目を覚まさないのか?

2ヶ月、3ヶ月…。

目を覚ます気配はない。

先生たちも皆首をひねる。

看護師さんたちは励ましてくれる。


だけど、玲奈は起きないんだ。

夏が終わり、秋が過ぎて…冬がやってくる。
















ある日、玲奈のご両親が俺を呼び出した。




「玲奈のことはもう忘れなさい」



信じられない言葉を言われた。



「宮澤くんは大学受験しようとしているんだよな?もう受験のことを考えなさい」

「俺は…玲奈が目覚めたときに、傍にいたいんです…」



それだけなんだ。俺の願いは、望みは。



「君の人生をこれからは生きるんだ」


俺の言葉はお父さんの言葉にかき消される。

お母さんは涙を拭っていた。



「宮澤くん…私たちはね、玲奈の家族だから責任があるけど、あなたは背負わなくていいの」



お父さんがお母さんの肩を抱いた。


そして、



「宮澤くん…君の人生は君だけのものだ。玲奈に振り回される必要はない」


きっぱりと。



「だから…もう来ないでくれ。お願いします」



そう言って深々と頭を下げられた。



「そんな…俺、玲奈の傍に…」

「もう二度と来てはいけない。玲奈のことは考えず、自分の生活を考えるんだ」



目の前に開けられないシャッターを下ろされた気分になった。

そのシャッターは押しても引いても、上げようとしても動かない。

そんな突き放された気分だった。





もう玲奈に会ってはいけない。

玲奈の事だけをずっと考えていたのに。





結果、俺は玲奈の事を吹っ切ることが出来ず、大学の受験しなかった。

卒業式も出てない。

彩が後で才加とともちんと一緒に証書を届けに来てくれたのは何となく覚えてる。







そして…。







俺は今日、二度と来ないと誓った場所に足を踏み入れる。
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