*夢譚*
□やさしい悪魔
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なんの変哲もないひととき。
私は泪さんの脚の間に座って背を泪さんの胸に預け、すっぽりと泪さんに包まれる体勢で、何とは無しに一緒にテレビを眺める。
私を背後から抱きかかえる腕をそっと辿り、すらりとした長い指に自分の指を絡ませた。
男の人にしては少し優しい手をしているのに殺人級のデコピンを生み出すんだから、見かけによらないというか、不思議というか…。
泪さんの場合は手だけじゃなくて、その綺麗な顔立ちとは正反対の「悪魔」なんて隠れたあだ名があるくらいだから、不思議ってわけでもないのかな?
「……ふわぁ」
頭上で、泪さんが欠伸をした。
交通課から捜査室に異動したばかりの頃は、こうしてリラックスしている泪さんの姿なんて想像できなかった。
私の旦那様になるなんて、あの頃の自分が知ったら驚くだろうなぁ…。
なんて思いに耽っていたら、私の視界がゆっくり傾いていく。
「押し倒されてんのに、嬉しそうだな」
ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべて私を見下ろす泪さんだけど、私を支える腕は力強く、私に触れる手は優しい。
それは、一生変わることなく私の傍にある確かなもの。
私の前髪を梳くその手をそっと自分の頬にあて、泪さんの瞳を見て呟いた。
「だって……幸せだから…」
刹那、
甘い甘いくちづけが降ってきた。
―終―