ゴーストハント

□風邪
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「こほっ」

咳を零すナルが見えた。

「ナル?もしかして風邪」

所長室にこもって資料をかき集めていたナルは首を横に振った。

「少し痰が絡んだだけだ。麻衣、お茶を淹れてくれないか」

そう?と少し心配そうに見やって、「わかった」と返事をする。

「アイスにするホットにする」

「アイスで頼む」

ナルはそれだけ言うと資料に再び目を落とした。

麻衣は給湯室でナルが咳をしたのを気にしていた。もしかして、風邪が移ったのかも。

このところ冷え込みもキツかったし、体調を壊してもおかしくないよね。大丈夫かなぁ。

オレンジペコーのアイスティーを作り所長室をノックするが返答がない。

「ナル?お茶持ってきたよ?入るよ?」

入ると書類をディスクに起き、その上に頭をもたげたようにして目をつぶっているナルがいた。

もともと白い面は熱の為に赤らんで見える。

「ナル!」

額に手を当てると明らかに熱さを感じる。

「熱があったんじゃないの」

ナルは熱のせいで思考がハッキリしないようだ。誰かに呼ばれていた気もするが、今は身体が休息を求めている。

意識は深く沈んでいく。

どれだけ眠っていたのだろうか。起きた時には、夕方になっていた。

誰もいないのかやたらに静かに感じられる。のろのろと身体を起こして周りを見渡すと先程まで見ていたと思っていた資料は綺麗に片付けられていた。

そんな時に所長室の扉が開いた。

「麻衣」

麻衣はナルが起きているのを確認して手を額に当てる。

「まだ熱があるようだね。喉が痛いんじゃないの?」

「これぐらいは…」

「平気じゃないでしょ。大根おろしに蜂蜜をかけたものを作ったの。これなら喉が痛くても喉越しが良いから食べられるはずだよ」

そう言って硝子の器に入った食器を手渡してきた。

「僕は大根は苦手なんだが…」

「蜂蜜もかけてるから、大根の味はそんなにしないと思うよ」

そう言われてそろっとスプーンですくい口に運ぶ。なんだか未知のものを食べる気分だ。

だけども、
喉の痛みもなんのそのスルーっと喉をすり抜けていく。喉の熱を吸収するように。口に運ぶ度に痛みと熱が引いていく感じがする。

もともと少食な上に食欲のなかった僕だがこれは全て完食してしまった。

「良かった。後は眠るだけね」

そう言って笑う麻衣に僅かに目を綻ばせて言う。

「あぁ。麻衣はもう帰って良いぞ。戸締りは僕がやっておく」

何言ってんだかという表情をして麻衣は僕を見た。

「こんなナルをほっておける訳がないでしょ」

「僕なら…「大丈夫だ」って言うんだよね。でも、私が心配だから残るの」

こう言われて押し切られてはナルは帰れとは言えないのを麻衣は知っている。

「わかった。勝手にすればいい」

「うん。勝手にするから。だから、安心して眠って」

普段こういう事をするときっと冷たい目で見られて怒号飛ぶだろうが、今日は、ゆったりと目を閉じてされたままになっている。
ナルの髪をときながら優しく麻衣は見守りながらナルが眠りにつくのを待ち、そう時間が経たない内に寝息が聞こえてきた。

それを確認してホッと胸を撫で下ろす。


普段なら絶対にそんな事は許さないけれど、今日なら熱のせいにして麻衣に甘えてみるのも悪くない、そう思った。

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