ゴーストハント
□声が聞きたい
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「本当にナルなんだ」
「僕じゃなければ誰だと思ったんだ」
「だって、国際電話はだからってきり、まどかさん宛の電話だと思って…」
まさかナルが電話をかけてくるなんて思わないじゃない。
「国際電話だからこそ気が付いて欲しかったですね。谷山さん」
そう言われて麻衣は言葉に詰まった。
「うっ…」
でも、ここから少しだけ声のトーンが柔らかくなる。まるで、ジーンのように。
「元気そうで何より。僕は、後一ヶ月はこちらにいるが、それを過ぎれば、日本に戻る」
そう言い切った。
「でも、お母さんは…」
そう言うと、ルエラはもう立ち直って来ているからとナルは返してきた。
「どちらかと言うと僕がいた方がジーンを思い出すようだな。無理もない話だが。でも、ジーンの生前の話が出来るようにまでなったんだ。もう大丈夫だろう」
「そうなんだ。良かった」
そう言ってホッと胸を撫で下ろした。
「ルエラの事に対しても随分心配かけたようだな。すまなかった」
それこそ、麻衣は大きく目を見開いた。
「ううん。そんな事ないよ。誰かの心配出来るって思える事って大切なことだから。ナルが謝る事なんてないの。むしろ感謝してるよ。もう、私にはそんな相手はいないから」
麻衣の身を心から案じてくれる両親は、もういない。
「でも、なんで電話なの?手紙でも良かったのに」
「僕は忙しいんだ。手紙を書いている時間はない。電話の方が早い」
そうナルが言うと麻衣が笑ってそれを肯定した。
「そうだね」
それに、とナルは言う
「僕が手紙を書いたとして、麻衣が読めるかは怪しいところだがな」
英語で書かれた文章を和訳できるのかとナルは憎まれ口を言ってきた。
「悪かったね」
そう言ってなんだか笑いが込み上げてきた。なんて久しぶりのやり取りだろう。
「麻衣、もう暫く不便をかけるが、オフィスを頼む」
「うん。待ってるから」
「あぁ。それじゃあ」
そう言って電話は切られた。
なんだか、夢を見ていたようなそんな感覚だった。でも、しばらくして現実味を伴っていく。
頬が熱を持ったように熱く感じられる。
ナルが電話をかけてきてくれたのが嬉しかった。もし、これがまどか宛の電話だとしても麻衣は喜んだかもしれない。
まどかの事だから、「麻衣ちゃんにもちゃんと声をかけときなさい」とか言って電話を繋いでくれただろうから。
そして何よりもナルの声が聞けたのが嬉しかった。
心の内を暖かい感情が満たしていく。
麻衣の表情に今までの憂いは払拭され晴れ晴れとした笑顔が見られた。