その花の香りに酔う前に……
□第一夜前編 土翁と空夜のアリア
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食堂にいる全員の視線はある一点に集中していた
「もういっぺん言ってみろ、あぁ!!!?」
「おい、やめろバズ!!」
視線の先にいるのはユウと一人の探索部隊(ファインダー)
「やば……ジェリーさん、サンドイッチ包んどいてくれる?あれ、アレン?」
アレンはすでに私の隣にいなかった
「うるせーな。メシ食ってる時に後ろでメソメソ死んだ奴らの追悼されちゃ味がマズくなんだよ」
「テメェ……それが殉職した同士に言うセリフか!!俺たちファインダーはお前らエクソシストの下で命懸けでサポートしてやってるのに……それを…それを…」
ユウに口答えしている男は大男にも関わらず涙を浮かべていた
「メシがマズくなるだとっ、ウグッ!?」
ファインダーの男はユウに殴りかかろうとするも逆に首元を掴まれてしまった
「『サポートしてやってる』だと?」
フン、とユウは鼻を鳴らした
「違げーだろ?サポートしかできねぇんだろ?お前らはイノセンスに選ばれなかったハズレ者だ」
ギリ、とユウは手に力をこめた
あたりはしんとしている
「死ぬのがイヤなら出てけよ。お前ひとり分の命ぐらい、いくらでも代わりはいる」
「ストップ」
ユウの手を、誰かがつかんだ
「関係ないとこ悪いですけど、そういう言い方はないと思いますよ」
「……放せよモヤシ」
「モヤッ…アレンです」
「ハッ、一ヶ月でくたばんなかったら覚えてやるよ。ここじゃバタバタ死んでいく奴が多いからな。こいつらみたいに」
「やめなさい!!」
「ミサキ?」
アレンは思わぬ人物の登場にきょとんとするが、周りにとってはいつものことなので少しほっとする
(少しの間に何こんなに仲悪くなってんのこの二人……)
もはや呆れてため息しかでない
「……ッチ」
ユウはファインダーの人間を放すと食堂の出口に向かおうとした
「あ、ちょ、待って!!」
「……早くしろ」
ユウは立ち止まり、ちらりとこちらを見た
「どこ行くの?」
「鍛錬場」
「私もいく。じゃあね、アレ……」
「あ、おーい神田ー、ミサキー、アレーン。十分後に司令室に来てくれ」
その時リーバーさんから声がかかった
「行き先変更、司令室でいい?」
「あぁ、行くぞ」
あれだけイラだっていたユウも私に牙を向けることはない
(ずーっと一緒にいるしね)
「じゃあね、アレン。ロウ、いくよ」
「カァー」
「あ、はい、また……」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねーねー、ユウ」
「なんだ」
「任務かな?」
「他に何があんだよ」
ユウの左隣
これは私の定位置
八年前に師匠とともに一年間ユウと一緒に修行して
ユウより一年遅く正式にエクソシストになってからも大体の任務を一緒にこなして
ティエドールファミリー(この単語を使うとユウはものっすごく不機嫌になる)のなかでも一番近くにいる存在
(それにユウってひとりで任務に行かせると絶対無茶するから心配なんだよなぁ……)
ユウもユウで私が心配らしく、よくコムイに私単独の任務がないようにと斬りかかっているらしい
「ふふっ」
「なんで笑ってる」
「なんでもないよ」
「……」
「ほ、本当だから睨まないで?」
「……ッチ」
ユウの左隣には、いつもわたしがいる