(題名未定)
□第三話
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アシュたちと旅を始めてもう3週間になる。
アシュは快活でおしゃべりだが、不思議とそれを騒がしいと思うことは無かった。
新しい景色を見つけてキラキラと目を輝かせるアシュは可愛げさえあった。
太陽の国、と呼ばれるこの国はかなりの領地を保有している。今でこそ武力は衰えているが、前はかなりの武力、兵力を備えており、敵となる国は無かった。
国内には様々な景色が広がっている。
東は深い森、西は大きな海、南はきらびやかな都、北は通年雪が積もっているような険しい山々が連なっている。
インたちはだいぶ東の方に進んできたが、ここはかなり栄えている。国の中でも文化が色々異なるようで、その景色もその土地で変わる。
染物の作成が盛んらしいこの街は至る所に華やかな色の布が靡いており、街中を歩く人々の衣もそれに合わせて派手に見えるものが多い。
インはそんな布を見ながら酒を飲んでいた。
夕暮れになるが、食べ物や小物、布類の屋台はまだ賑わっており、多くの人が行き交っている。
食べ物も美味かった。初夏の味覚が並べられており、季節感を大切にしたメニューだった。
インは屋台ではしゃいでいたアシュをよそに、一人酒を煽りながらくつろいでいた。
「インー!」
そんな時名前が呼ばれた。
こちらに手を振って駆けてくる影。
「っ.......」
それがあまりにあの日の記憶と酷似していて、インは息を飲んだ。
明るい声、風に靡く艶やかな黒髪。背丈は違うが、赤く染まりかけた太陽の光に照らされる笑顔はそれを思い出させる。
「ヨラ......」
あれからもう何年も経つが、自分のせいで命を絶ってしまった彼女の姿は今でも鮮明にインの脳裏に焼き付いている。
あの時彼女は妊娠していた。あれから17年、もし自分が王からの命を断って剣を向けていなければ、彼女は生きていて、その子ももう17にもなっていたかもしれない。
いや、しかしあのまま薬物に朝廷や市中が染まっていたら同様の結果になっていたかもしれない。
こんな自問自答を何度したか。
何度も考えて、それでも答えは出なかった。
「先生?どうかした?」
いつの間にか目の前までたどり着いていたアシュが物思いにふけるインの顔を覗いた。
「ああ、いや」
インはアシュを見た。
もう彼女は居ない。もうあの日は帰ってこない。
こちらを首を傾げて見ているアシュの凛々しくも大きな瞳はとても彼女に似ている。
初めて会った時からこの青年を不快に思わなかったのはそのせいかもしれない。
アシュは両手にたくさんの食べ物を抱えていた。
「お前、買いすぎじゃないか?それ全部食べるのか?」
アシュはニカッと笑う。
「食べ盛りだからね!先生も一緒に食べよう」
アシュはテーブルに食べ物を広げた。
「リュウはどこだ?」
「あ、リュウなら1人で出かけたよ。夜には戻るって。たまに出かけるんだ。まあいっつも僕の世話焼いてくれるから、たまには1人になりたいんじゃない?」
「お前もそろそろ大人にならないとな、アシュ」
「僕はもう立派な大人だよ、ほら、こうしておつかいもしてる」
アシュは団子をインに見せつけながら笑う。
「さあ、先生乾杯だ」
掲げられた盃にインは調子の良い奴だと微笑み返して盃を合わせた。