Story.

□[─ Scarborough Fair ─]
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Are you going to Scarborough Fair?
─スカボローの市へ行くのかい?─
Parsley, sage, rosemary and thyme,
─パセリ、セージ、ローズマリーにタイム─
Remember me to one who lives there,
─そこに住むある人によろしく伝えてよ─
For she once was a true love of mine.
─彼女はかつての恋人だったから─







【1】序曲

 私はある高等学校で英語の教諭をしている。もうすぐ三年目に入るところで、本年度は担任も務めることになってしまった。
 始めはかなりの不安から緊張してしまい生徒にからかわれる事も多かったのだが、新しい環境に来たばかりのような新入生でもなく、受験や進路相談でてんてこ舞いになる3年生でもない中間の学年だったので、生徒にも余裕があったお陰か何とかやっていく内に形になってきていた。
 私の生活は主に職場である学校を中心にまわっていたが、去年の暮れに旧友と再会し、その縁から付き合っている人もいた。教師という仕事に詳しい人ではなかったが、彼も不安だった時の私の支えになってくれていた。お互いに仕事が第一の人間だったので、週末しか会えることはなかったが。

そんなどこにでもいそうな地味な私の教師生活は、クラス担任を初めて任された一年の間に、まったく考えも及ばないほど違うものに変わってしまう事になる。
 私は一人の生徒を大変な事に巻き込んでしまった。そう、『彼』は巻き込まれただけに過ぎない。そしてあれは、私へ差し伸べられた救い────だった筈。
 なのにどうして、彼にこんなに恐怖しているのか。そして、どうしてこんなにも私の心は彼に囚われているのか─────。

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