およそ一生なんて

□第1話
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――ん、なんか体がふわふわしてる。

誰かに抱えられてるみたい。


まだ働かない頭でそんなことをぼんやり考えていた。



?「ったく…しょーがねーな。日本に来て早々人助けかよ」



その声を聞いたとたん止まっていた思考がフル回転する。



パチッ!!



?「お、目ぇ覚めたか?」

『え?え?…え?な、なん…』

?「大丈夫か?」



い、いや!

私が驚いてるのはそこじゃなくて...


だって目の前にいるのは…



『ら、らん…』

?「乱馬ーーーッ!!!覚悟ー!!」

?「でぇ!?」



ドカーーン!!

…ガラガラ



私たちが乗っていた塀を壊して塀は崩れ落ちた。



ら、乱馬のお父さん…。

これ、夢…?



ぎゅっと頬をつねってみる。



……痛っ………

夢…じゃない?



玄「む!?」



乱馬のお父さんは私と乱馬を交互に見て涙を流した。



玄「父は悲しいぞ…」

乱「な、なんだよ」

玄「貴様また女性に手を出しおって!!」

乱「人助けだ!!」

玄「問答無用!!」



そしてまた命をかけた追いかけっこが始まった。
乱馬は私を抱えながら逃げていく。



乱「わりーな、巻き込んで」

『いや…』

乱「お前、家は?送る」

『家…?』



この世界の私が誰なのか、

何のためにここに連れてこられたのか、

分からないことだらけだった。



『…』

乱「…?」



返答がなく不思議の思ったのか屋根の上に着地して私を下ろした。



乱「どうした?」



どうしよう。

初めて会う人に「違う世界から来ました」とか「ここは漫画の世界です」とか言っても不審に思われるだけ。

かと言って行く宛てもない。



1人悶々と考えているとちょうど乱馬を追いかけてきた乱馬のお父さんがやってきた。

しかし私と乱馬を見て状況を把握したのかケンカをふっかけることはなかった。



玄「?」

乱「なんか訳ありっぽくてよ」

玄「訳ありじゃと?」

乱「家まで送るって軽く言ったつもりが黙り込んじまって」



困った顔をする2人。

申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



『あの…』



控えめに声を発するとこっちを向いた。



『……分からないんです…

自分が誰なのか…』



驚く2人。



乱「記憶喪失…ってことか…?」

『いや、えっと、多分そうじゃなくて…』



どうしよう。

言うべきか…


絶対信じてもらえない。



『…ッ』



伝えたいのに伝えることが怖い。

震える手をぎゅっと握りしめた。



『信じて貰えないと思うんですけど…ッ』



2人の顔が見れなくて下を向きながら伝える。


「助けて」の気持ちも込めて。







『私…ここの世界の人、じゃないと思います…』







下を向いていて2人の表情はわからない。

そして、私は続ける。



『私の世界ではこの世界、本になっています』



何言ってるか、分からないよね。



乱「ほ、本…?」

玄「どういうことじゃ」



その声に顔を上げて説明した。



『…あなたは中国にある呪泉郷で熊猫溺泉(シヨンマオニ-チユアン)に落ちて水をかぶるとパンダになる。

同じくあなたも呪泉郷で娘溺泉(ニヤンニ-チユアン)に落ちて水をかぶると女の子になる。
…そうですよね?』



私が言うと2人はなんとも言えない顔をした。



乱「てことは…名前も…」

『早乙女乱馬さんと、早乙女玄馬さん』

乱「…まじかよ」



困ったように頭をかく。



『ごめんなさい、怖がらせて』



分かってはいたけど、実際に引かれると結構しんどいな…

迷惑だろうし…



…やっぱり、自分で何とかしよう。



『えっと、助けてくれてありがとうこざいました』



ペコッと頭を下げ、2人に背を向けて1歩踏み出した歩き出した時。







ズルッ



『あ…ッ』








屋根の上だったことを思い出す。

落ちる衝撃を待つように目を閉じるとふいに浮遊感がした。








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