long story

□1話
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カサリ、と揺れる車の中で寝転びながら持っていた花が音をたてた。
その音のせいって訳じゃないけど…
揺れた衝撃のおかげかすっかり目は覚めてしまった。

「あ…。」

手に持っていた花が萎れかけてた。
金持ちってだけで媚びうってた奴らのだったら別に気にしてないが これは違う。
ロイドとクレスが二人でくれたものだ。

俺は自分で物を買った事がないが、綺麗な花だから高かったと思う。
地位目当ての奴らからもらった物なら即刻処分…とはしないが、ナタリアか母上あたりにあげた。
綺麗な花であっただろうけどすんごく汚くみえたから。
なんだか花に申し訳なくなってきた。

萎れてた花は大切な友達からもらった物
萎れたのがショックで放心状態になる。

「−水!おい、水よこせ!!」
「すみません。ルーク様、この奥に止める場所がある探しにいきます」
「今ねぇのかよ…!」

早くしないと枯れてしまうというのに慌てる感じもなく、ただただ淡々と話す
そこがまたイライラさせられる。
まぁ、雇われてる身だから仕方ないんだろうが。

がたがたと揺れている車の窓から顔を覗くと、木が何本も見えた。ジャングルのようだ。
こんな獣道通んなよ、誰が乗ってると思ってんだこの運転手クビにすんぞ。

キキィイイ

急に車を止められて 体が前のりに傾く

「ここで水を汲んできます。絶対に車から出ないでください」

バタンッ

運転手が一度もこっちを向かずすたすたと車を降りて森に入っていった。
うぜ、あーうぜ

んなことだーれが聞くかよ。

こんな道通るから身体中あちこちが痛いし、ちょうどなまってたんだ。
散歩くらいどうった事ないだろう。

勢いよく車のドアを開け外に出る。

「はは…っ、ざまあみろってんだ!!」
あいつはきっと俺が消えた事に大慌てすんだろうな。そんで母上にクビにされちまえばいいんだ!
ざまあみろ!

…「あん?」

走り続けたはいいけどあまりに愉快だったから、何処に向かってるとかわかんなかった。

急に静かになる空間。

目の前にはなかなか寂れたトンネル。
所謂、和を感じさせるとでも言うのだろうか。
どこか違う時代を感じさせた。

トンネル…のはずなんだけど、車は入れないように俺んちにある壺くらいの大きさの蛙の置き石がある。

って事は、人用だろうか?

なかなか滅多に深く物事を考えない俺はうずうずと好奇心に負けて考えを中断。
っていうより、どんなに考えても入ればだいたい解ってくる。

カツン カツン…

別に女みてえな靴履いてる訳じゃねぇからカツンともコツンともならなさそうなそうなはずだが。
このトンネルが静かすぎるからか?というか静寂…っていうのかな?
俺以外の気配は全くといってもいいほどに静かだ。

不気味だな。

カツン…

「わぁ…。」

ふわり…と風が朱い長い髪を揺らす。
それは自然。一面に草花があり、昔ながらな古い建物がちらほらあるだけ。

先程までの不気味さは何処へ。
今感じてるのは懐かしい…って感覚に似てるかもしれない
気持ち良い。

「俺の知っている世界は…狭いとこばかりだな」
こんなに居心地がいいんだから、もう少しぐらいここに居ても俺は悪くないはずだ。
悪いのは こんなところにこんないい場所があるのがいけないんだ。

草花をわけて 石造りの階段をゆっくり登ってく。
「階段も古いなあ…誰もすんでないのか?」
それはそれでどうでもいいけど。

街に入ってみたものの…ひとっこひとりいない。
本当随分古い建物ばかりだ。

「…あ、何で…食べ物?」
店を軽く覗いたが見えたのはまだ作りたての揚げ物、焼き鳥、得体の知れない物質、
ナタリアのそれに似てるかもしれないなぁ。

まだ作りたてなのは人がいる証拠だろうか。
でも辺りを見回しても人の気配は皆無。
…人がいなかったら後で払えばいいかと思ったが、食欲が全てあの物質に吸いとられて気持ち悪さが上回った。
ナタリアのせいか…いやナタリアの作る生き物のせいだ…うぇ。

吐き気のあまり店から出ると一際大きな建物が目についた。
上り坂になっている道の一番上。

「うわぁ…」
赤い建物。それは旅館の古い版か、はたまた…いや、
考えるのは無しにしよう。
俺らしくない。

好奇心と違和感につき動かされて俺は一番上を走って…といいたいところだが、気持ち悪さが手伝い結局情けない格好しながらあがっていった。
 

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