番外編

□叶わぬ約束
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橋「飛鳥」



父親の病院の
7階の病室。


2人部屋を覗けば
窓から空を見ている彼女がいた。


決して、ベッドの上からは動かない。


ただ、顔だけを空へと向けていた。



私が名前を呼んでも
振り向かない。



橋「飛鳥」




飛『っ、
奈々未、か…』




橋「周りの声聞こえなさすぎ(笑)」




飛『うるさいなぁ』




橋「体調はどう?」




飛『いつも通り』




橋「あんまり良くないのね」




飛『別に、そうとは言ってないし…』




橋「飛鳥は強がるから
ほら、寝てなきゃ」



飛鳥のことを
ベッドに押し倒して
布団を直してあげる。



飛『あ、奈々未
この本、読み終わった』



飛鳥が私に渡してきた本
一週間前に貸したものだ。


そんな短期間で
読み終わるなんて、
本当にすごい。



飛『ハッピーエンドは
好きじゃないって言ってるじゃん』




橋「誰?
私の好きな本貸してって
言ったのは」




飛『私の好みも
少し考えてよ』




橋「わがまま言わないの」



ハッピーエンドじゃない本も
いくつか持っている。


でも、
それは気持ちが暗くなるから
飛鳥にはできるだけ
読んで欲しくなかった。



飛『奈々未、暇なの?』




橋「学校行ってる」




飛『ほぼ毎日来るじゃん』




橋「そーだね」




飛『本当に学校行ってるの?』




橋「もちろん。
そのおかげで家に帰ったら
調べること山ほどある」




飛『じゃ、早く帰りなよ』




橋「息抜きも大事でしょ?」




飛『私は、息抜きに使われてるんだ』




橋「そんなこと言ってないでしょ」




飛『ご飯まで寝る』




橋「うん、分かった」



口元まで布団で隠し
目を閉じた飛鳥。


私はこの瞬間が1番嫌いだった。


飛鳥が、
二度と目を開けなかったら
どうしよう…


って、考えてしまうから。


最低なこととは分かってる。


でも、それほど不安だった。








私と飛鳥が出会ったのは
私が小学校に上がる前の冬。

私の父親の
この病院にやってきたのが
飛鳥だった。


その頃、
父親と母親の病院に
行ったり来たりして
仲良くなった子と
遊んだりしていた。


父親の病院は
母親の病院よりも大きく
有名な病院だった。

父親も腕のある医師として
有名だったのだ。



ここで出会った私たち。


あまり話さない。
あまり笑わない。
あまり泣かない。

そんな飛鳥が気になり、
私は彼女が
この病院にやってきてから
ほぼ毎日、会うようになった。


飛鳥が心を開いてくれるまで
とても時間がかかった。

やっと心を開いてくれたのは
私が中学に入る前。



飛鳥は
普通に学校に通っていたら
小学4年生。

だんだんと、
自分の病気に対しての
恐怖に気づいて行った飛鳥は
出会った時よりも
私に対して心を閉じて
しまいそうだった。


だから、私は
『何があろうと飛鳥のそばにいる
絶対に飛鳥から離れないよ』
そう言って、抱きしめた。


今でも覚えてる。


抱きしめた時の
飛鳥の体の小ささ、
温かさ。

そして、
私の肩に顔を埋めて
泣いていたことも。


この子は絶対に
守らなければいけないんだって
小さいながらに思った。
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