短編
□冬の手
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「うっわー。乾燥で手が……」
言いつつ、レギュラスくんに向けて手の甲を見せる。
「見たくないので早くその手をどけてください」
「え、レギュラスくん辛辣すぎ。そこは心配するとか……!」
「ないです。だってあなたの不摂生が祟ったんですよ?
女の子なら女の子らしくもう少し……少なくとも手先くらいは綺麗にしたらどうなんですか?
これからは身だしなみにもっと気を使ってください」
「そ、そんなことないと思うんだけどな……?」
たしかにここ最近は保湿だーとか、やってなかったけどさ……!
これだって女子だもん、すこしくらいは気を使ってるよ、たぶん。
「何で疑問系なんですか……」
はあっ、と小さくレギュラスくんは溜息をついた。
「先輩、手出してください」
「? はい」
さっきは見たくないと言ったくせに……!
これがツンデレなのか?!
「先輩、ハンドクリームくらいは持ち歩いてくださいね?
こんなに切れてたら痛いでしょう?
きれいだとかそういう以前の問題です」
そういいながらいつのまにか出していたハンドクリーム(すごく高そう)をわたしの手に塗ってくれる。
「え……と、ありがとう」
「珍しいですね、先輩が素直にお礼を言うなんて」
もしかしたら明日は雪かもしれませんね。
「そしたら初雪だね。雪合戦しようね!」
「どんだけ幼稚なんですか……?」
そして、また溜息を吐くレギュラスくん。
「いいですけど、手袋はつけてきてくださいね。これ以上悪化されても困りますから」
なんだかんだ付き合ってくれるのがレギュラスくんのいいところだよなーなんて、口に出したら撤回されそうなので言わないけど。
塗り終わったのかレギュラスくんはつ、と手を離した。
む。ずっと握ってくれててもよかったのに。
手に視線を落とすと、きれいに傷が消えた元通りの手になっていた。
さすが魔法界のハンドクリーム。
「すごい……!高そうなだけあるね!!」
すんっ、と鼻を近づけるとあまりしつこくない、花とハーブっぽいいい匂いがした。
「いい香りですよね。僕もこの香りは好きです」
朗らかに笑ったレギュラスくんはいつもより幼くて年相応に見えた。
後日、そのときのハンドクリームと、そしておなじ系列のリップクリームがわたし宛に梟便で送られてきた。
もしかしなくても、彼からのもので嬉しさと申し訳なさで朝ご飯が普段よりのどを通らなかったのは気のせいじゃないかもしれない。