俺様誰様?

□出会い(過去)
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流魂区は力を持つ者で溢れ還り、血の匂いが空気を汚す。
また力を持たざる者の餓死した遺体で道端は溢れ還っていた。

私は年の離れた兄、剣八と兄が拾った赤子のやちると共に流魂区を放浪していた。
今日は幾分、兄の機嫌がいい。
特に何があったわけでもないのだが・・・。
まぁ、襲いかかってくる馬鹿が居なければよしとするか。

「機嫌がええのぉ、兄者」
「あァ」
「・・・(理由は言わんのな)」
「眩しいな、俺は少し寝るぞ」
「あいよ」
「剣ちゃん、寝るのー?」
「オゥ。お前は燈彪に構ってもらえ」
「押しつけんなよ、・・まぁいいか。やちる、地面に絵描いてな」
「はぁーい」
「お前はどこに行くんだ?」
「酒、かっぱらってくる」
「そうか」

生返事が背後で聞こえる。
了承を得ると同時に軽々と路地裏から建物の屋根に飛び移り、
カラカラと下駄の音を立て酒屋に向かった。


「強い奴はいねぇかー!」


そんな大声が聞こえたのは、買った酒を飲みながら兄のもとへ戻っている時だった。
威勢のいい若い男の声だった。
そいつからは霊力が感じられ、その霊力は真っ直ぐに兄のいる路地裏へと入っていった。

「面白いことに、なるかな?」

誰に言うでもなく呟いて、足を早めた。

道端にいた人々の魂たちは、関わらないように立ち去るものもいれば、
なんだなんだと野次馬のように群がる連中もいた。
その連中を押しのけて、兄のもとへ戻るとその路地には兄とやちるの他に2人の男がいた。
一人は花の柄の着物に、黒髪長髪。
もうひとりは、何だか破廉恥な丈の着物を着ている頭が涼しいハゲ男。

「なんやなんや、兄者、どういう状況?」
「オゥ、燈彪。ちょっと待っとけ。こいつの相手してやるからよ」

剣八はニィと笑みを浮かべて妹にそう言い放った。
ハゲの男と花柄の着物の男はこっちを見て驚愕している。

「あ、あんな綺麗な人が、貴方の妹?娘の間違いじゃないの?」
「れっきとした妹だ」
「違いすぎでしょ、ね?一角?」
「・・っ!」

一角、とかいうハゲ頭は私の顔を凝視したまま何も言わなかった。

「・・で、まだ始まってないんだよね?」
「あァ、これからだ」
「・・そ。あんたは?やる気あんの?」
「あ、あったりめぇよ!」
「じゃ、やちる」
「はい、姉さま!」

やちるを呼ぶと、剣八の肩から降りて屋根の上にいるわての方に走ってきた。
斬魄刀の先を下に差し出すと、やちるは小さな手でそれを掴んでよじ登ってきた。
膝の上に座らせ、酒を一口飲んだところでやちるに頷く。

「それじゃ、よーい、」

やちるは手のひらを天へかざして大きな声で言う。
下にいる兄とハゲくんは刀を取り出して身構えていた。

「スタート!」

ドォォン!ガキィン、キィン!

凄まじい音が響く。
周囲は騒然とし、砂埃が立ち上った。

「終わったら、教えてよ。わて、寝る」
「はーい!」

やちるを抱きしめたまま、砂埃の舞う世界から目を閉じた。

数十分、いやそんなにもたっていないのだろう。
やちるの声で目が覚めた。

「姉さま!」
「ん、あ、・・やちる、どうなった?」
「もう終わったよ!剣ちゃんが勝った!」
「ま、そーだろうけど。・・兄者」
「おぉ、起きたか燈彪。行くぜ」
「あいよ」

やちるを抱きしめ、屋根から飛び上がる。
トッ、と足をつき、やちるを離してやると彼女は嬉しそうに走って行き、兄の背によじ登った。

私は倒れているハゲくんに近寄り、飲みかけていた酒を置いてやった。

「その酒、私の飲みかけだけど薬酒だから。
沸騰させたのを布に浸して体に巻きな。
沁みるが、良く効く」

そして下駄を鳴らし兄の元へ戻った。

「久しぶりに面白ぇ遊びだったぜ」
「そぉ。遣りすぎやけどな」
「ハッハッハッハ!」

「待ち、やがれぇっ!」

背後で声がした。
ハゲの彼は血まみれになりながら、こっちを睨んでいた。

「何だ、まだ生きてんのか」
「手加減、した?」
「しねぇな」
「っ、何ごちゃごちゃ言ってやがる!どういうつもりだテメェ!何で留め刺さねぇ!テメェの勝ちだぁ!」
「悪ぃな。闘えなくなった奴に興味はねぇ。
わざわざ止めを刺してやる義理もねぇしな」
「ふざけんな!バカにしてんのか?殺せぇ!っ!」

息を切らしながら喚くハゲくんの胸倉を鷲掴んで兄は低い声で言い放つ。

「テメェも戦いが好きなら、殺せだ何だと喚くんじゃねぇ。
負けを認めて死にたがるな。死んで初めて負けを認めろ!
負けてそれでも死に損ねたら、そいつはテメェがツいてただけのことだ。その時は生き延びることだけを考えろ」
「な、何を・・?」
「生き延びて、テメェを殺し損ねた奴を殺すことだけを考えろ!
・・俺は、手ぇ抜いて戦ったわけじゃねぇ。
死に損ねたのは、テメェの運だ。・・・生きろ」
「っ!?」
「生きて、俺をもう一度殺しに来い」

兄はそういうとハゲくんを離してわての方へ戻ってきた。

「行くぞ、燈彪」
「あいよ」

「っ!・・あ、まっ、待ってくれ!
あんた、あんたの名前を教えてくれ!」

「・・・剣八。更木の、剣八だ!」
「更木の、剣八・・・」
「因みに、わては燈彪や。またな」
「燈彪、さん・・」

私も自分の名を名乗ってから、手を振って立ち去った。
夕焼けがまぶしいその日に、私たちはであったのだ。
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