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□思い出
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「イチョウのじゅうたん」
毎年この季節になると思い出す。
こもれびの道っていう正門と学課棟を結ぶなんてことない道が大学構内にある。
「こもれびっていうけど、ただの道だよな。細いし、涼しいくらいか?」
その反対側には、左右イチョウの木がずらりと並んでいて、夏が過ぎ、やがて秋も終盤にかかる頃には銀杏とイチョウの葉が落ち、綺麗な黄金のじゅんたんが敷かれる。
「懐かしいな。元気にしてるのか?」
「誰が?」
「うわっ、びっくりした…っ。いきなり声かけるなよな」
「いや、声はいきなりかけるものでしょ」
「このドS」
朝弱いくせに今日もかっこいい。
女の子たちがチラチラ見ているのがよくわかる。
「で、誰が元気にしているの?」
「あ、いや…幼馴染。」
「初恋の相手ってやつか」
「うぉいっ!勝手に初恋って決めつけるなよ!それに幼馴染の相手男だから」
「ふーん。そうなんだー。もしかしてその相手が翔くんの初恋だったりして」
「どうだろうな。犬みたいにかわいい奴だけど、俺もまだ小さいし、わかんねえ」
松潤はにやにやしながら教室へ向かう。
そりゃ、3年なのに彼女もいないわけだな、
なんて言って俺のことを妙に納得したような顔で。
「どういう意味だよ。」
こんなこと聞かなくても分かっていた。
でも別にあいつのことが好き、だったのか
それは今でもわからない。
けどいくら合コンに行っても、バイトをしていても付き合いたい、って思える程好きな女に出会うことがなかった。
おかげで友達から病気なんじゃないか、って疑われたくらいだ。
「翔くんかっこいいのにもったいないよね」
「それは松潤もな」
「俺は今は彼女いらないだけ。なんか好きなことやってたいというか」
「そっか。俺もなあ。ま、いつか好きな人できたら変わるだろうけど」
途中で止まり、こっちだからと手を振って俺とは反対方向に歩いて行った。
やはり、後姿はサマになっている。