緋色の少女

□第二章
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用意された部屋は想像以上に広く綺麗な所で、私は暫くの間歩き回っていた。ほら、よく言うでしょ?広すぎると落ち着かないって

だって対面キッチンにアヤナミ達全員を呼んでもまだまだスペースが余る程のリビング。続きになっている扉を開けば一人なんだけどとツッコミを入れたくなるダブルベットが置かれ、大いに収納に活用出来るクローゼットが完備されていた。お風呂を見てきたけどトイレとは別になっており湯船には二人くらい入るそうな程のスペースがあった。トイレだって便座に座るまでに3、4歩は歩く


「……どこのスイートルームよ」


きっと私のツッコミは間違っていない。軍人に与えられるには程遠いほどに綺麗で広いのだから
クローゼットを開けたときは目を疑ったわよ。だって手ぶらの私が持っていた筈がない洋服がずらりと並んでいたのだから。し、か、も、下着までよ?確認したらサイズ当たってるし…
有難い事には有難いが、ある意味怖い。いや、まぁサイズはどうせヒュウガの勘が当たったんだろう。担ぎ上げられたときにでも……よし、明日殴っておこう

明日の朝一番の予定に"ヒュウガを殴る"と脳内メモした私は、監視カメラの類いが無いことを確認した

もしかしたら取り越し苦労だったのかな。この世界にはカメラというものが存在しないのかもしれないない

わざわざ自分の直属の部下を監視役としていたことを踏まえてそう結論を出した。もしあったとしても今のところその心配はないから早まった判断ではないだろう
私はさっさとお風呂を済ませて広すぎるベットへと潜り込んだ。体重を優しく支えるそれはなんとも寝心地が良い

人拐いにあったかと思えば手厚過ぎるこの待遇。これは相当気に入られたのだろうかと自意識的なことを思わざる得ない。まぁどちらにせよあまり長居をすることはないだろう。長くとも1ヶ月かそこらかな

ごろん、と寝返りをうてば髪が頬を撫でて落ちてきた
私は不本意ながらどの世界に行っても目立つ。それはこの血の様に真っ赤な髪と瞳のせい

ある所では血塗られた女と、ある所ではレッドモンスターと。あることないこと色々な言葉とこの赤を結びつけて呼ばれた。金持ちや王族はこの目立つ見た目が気に入ったのか側に置こうと大金を積んだり、人身売買に出されたこともあった
どれも初めは面倒ではあったものの暇潰しに途中までは付き合い、飽きれば行方を眩ませた。そう、私の人生なんてそんなのの繰り返し

でもただ一度だけ。好んで長居したところがあった

気味悪がるわけでもなく、飾りのように側に置くわけでもない。ただ、自分の家を提供し、仲間に紹介し、そして自由をくれた男のいる世界。縛るわけではない。ただ、好きなように暮らし、好きなだけここにいればいい。そう言うだけ

一度、気味悪くないのか、何故売らないのかと聞いたことがある。すると、その男は一瞬驚いた後、私を優しく抱き締めこういった


"気味悪いわけないだろう。お前は光を集める宝石のように綺麗だ。それはもう、息をするのも忘れるほどにね。そんなお前を小汚ないおやじ共に触れさせて汚したいなどと思う筈がない。のびのびとしている君が好きだから縛るつもりはないが、あわよくば、私の側でいつまでも笑っていて欲しいと願っているよ"


その後もその男は永遠と私を誉めちぎった。それがもう長すぎて、告白なのかただ私を気に入っているのかわからなかった。でも彼の側がとても落ち着くことにはかわりないし、今もその隣が恋しい

面倒だから。そう適当に理由を付けてここに連れてこられたが、本当はアヤナミがあの男に似ていたから大人しくしていたのだ。もしかしたらもう戻る事のないあの幸せをまた手に入れられるかもしれない。そんな、小さな期待があったのだ
だけどアヤナミと彼は全く違った。それはもう、落胆するほどに


「見た目が似てても中身までは一緒とはいかない、か」


期待させるようなことをしないでいただきたいなどと不満を垂らしていると、目に入った時計に私は目を疑う。だってベットに入ってからもう2時間近く絶とうとしていたから
昔を懐かしみ過ぎたと後悔しながらスタンドライトの電気を消す。遅れようならば確実に何やら罰が待ち受けているだろう。もしくはあの鞭で打たれるか
それは何としても避けたいと私はすぐさま目をつぶり眠りに落ちた


なのに私はあろうことか遅刻した。それは、彼らの場所を知らされていなかったから



「伝えておくように言ったはずだが?」


「あ・・・てへ☆」


バシーンッ



「……すみません」



まぁ怒られたのは伝言を伝え忘れていたヒュウガなんだけどね
ちなみに、私は彼らのいるここ、ブラックホークへと到着した早々挨拶&抱き付きをしようとしてきたヒュウガのみぞおちに拳をねじ込ませた。その理由は勿論、昨日のメモを思い出したから

「ひ、ひどい…」

「え?なんのこと?」


抱きつこうとしてきたから拳を暇潰しのみぞおちらへんに構えてただけじゃん。私、悪くないよ?




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