緋色の少女

□第二章
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「ねぇ、ねぇ。そろそろ教えてくれてもよくなーい?」

「だから名乗るような名なんてないのよ」

「そんなわけないでしょー?」


なんとも締まらない口調で親に付けてもらっただの、こう呼ばれてただのと言い始めるヒュウガ。出窓で外を眺める私に何度も何度も同じ質問ばかりする彼にある意味尊敬すら覚えてきた


「というより、そろそろ戻ってあげたら。ベグライターだっけ?彼、すっごく困ってたけど」


確か名前はコナツとかいってたかなと記憶を手繰りながら疲れきったあの可哀想な顔を思い出す

深い意味もなくただ何となくお疲れ様、とねぎらいの言葉をかければ相当不満が溜まったいたのだろう。止まらない不満を聞かされるはめになった。監禁されてい身ではあるが、あの疲れきった表情が可哀想すぎて全て聞いてあげてしまったではないか

まぁでも最後は謝ったし、今までここを訪れた3人の中で唯一好感を持てた人なんだけども


さっさと行ってあげろとシッシッと手を振れば、不満声を出して私の目の前に座った


「俺、ストレスたまると人を斬りたくなるんだよね☆」

「……迷惑なストレス発散方ね」

「でしょう?だからいかなーい」

「いや、行けよ」


「お口悪いよ」、なんて言うヒュウガを相手するのに飽きてきた時、コンコンコンッと扉がノックされた


「ヒュウガ、見張り交代だよ」

「えぇーもうー?」

「アヤナミ様がいい加減戻ってこいってさ。それにコナツも困ってたよ」


嫌だと駄々をこねながらピンク色の小さな子と話すヒュウガを呆れ気味に見ていると、一緒に入ってきた長身の男に声をかけられた。その手にはクロッシュを乗せた盆が


「これは?」

「貴方の昼食ですよ。ここに来て何も口にしていないとアヤナミ様がおっしゃられたので」

「…つまりあの人が用意させたと」

「はい」


用意したのがあの人となると食べるのを少し戸惑う

クロッシュをそっと持ち上げてみればなんとも食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐった。見たところ何か入っていそうのない美味しそうな料理。食べないという選択肢は選びたくない

入っていたとしても直ぐに死ぬような事もないだろうしお腹が減ってイライラしかけていた為、私はありがたく頂戴することにした


「!……おいしい…」

「でしょ!?」


見た目通りの美味しさに感嘆を漏らすとピンク髪の子がくいつく様に私に言った。「ハルセの作るものはどれも美味しいんだ!」とまるで自分の事のように嬉しそうに


「カツラギ大佐には負けますが」

「確かにカツラギ大佐の料理は美味しいけど、お菓子はハルセが一番だよ!」


もし私が腐女子ならば目を輝かせるような光景なのだが、生憎と私にはそういう趣味はない。まぁ和ませてはくれるけど

演技ではなく互いに思いあってることがわかるため、私は微笑ましくなり笑顔を溢す。本当に、と呟きながら。まぁ集まる視線のせいであまり続かなかったのだが


「……何?」

「…可愛い」

「はい?」

「ねぇねぇ名前は?僕はクロユリだよ」

「いや、だから」

「私はハルセです」

「ここの人間は人の話を聞かないのかい?」


ああ、あの人の下についているからそういう常識がなくなったのか。それなら納得だ

私の隣に座っていたヒュウガを蹴ってどかしたクロユリはにこにこと私の隣を陣取り名前を聞いてくる。私が名乗らないということは初めのときに一緒に聞いていただろうに

「ねぇ、教えて?」


と、可愛らしくコテンと首を傾げるクロユリの頭を撫でて私はため息をついた
行動と言動がなってないって?仕方ないでしょ。可愛いんだから


「名乗る名前なんてないのよ。あんたでも貴様でも、好きに呼んで」


と言っても納得してくれる筈がなく、のびていたヒュウガも交えてしつこく聞いてくる。ヒュウガに関しては俺も撫でてほしいとか意味の分からないことを言ってきたが

いい加減飽きた会話に助け船を出してくれる人が訪れないかと扉を見つめていると、それがノックも無しに開いたのだった


「…何をしている」

「貴方の部下に質問攻めとセクハラに合っているんですよ」

「ほお」


入ってきた男、アヤナミはヒュウガを鞭で締め上げた。私を助けてくれたのか、帰ってこいという命令に背いた罰なのか…
まぁそれは別にどうでも良いだろう。助け船を待っていた私としては有難い来訪者だった


「それで、何かご用でしょうか?人拐いさん」

「ふっ、相変わらず減らぬ口だな」

「誉め言葉として受け取っておくわ」


「で、何。」と笑顔を張り付ける私に、アヤナミは笑えない冗談を言いはなった



「貴様は私のベグライターとなった。明日からこれを来て働け」



そう言って手に持っていた紙袋を私に投げ渡す。取り合えずそれを覗いてみれば、ここにいる人達が身に纏う軍服にそっくりな、いや、それそのものが入っていた


「…笑えない冗談ね」

「冗談ではない」

「……私、承諾していないんだけど?」

「拒否権などない」


えぇそうでしょうね。そういうと思ってましたよ


「その手錠も取ってやる上に3食部屋付きだ。不満などないはずだが?」


あら、それは好条件だわ


貴方のベグライターでなければ


決定事項だと言うこの男の真意は一体なんなのだろうか。確かめようのないそれを探るべくアヤナミの目を見据えるが、返ってくるのは冷たい視線だけ
逃げようにも参謀と少佐、中佐がいるのだ。確実に骨が折れるだろう

私は少し考える素振りを見せて口を開く


「……それにプラス、外出許可も必要ね。私は鳥籠の中の鳥なんてキャラじゃないのよ」


その言葉に少し考えたあと、アヤナミはいいだろう、とやはりどこまでも上から目線に承諾した

ま、どうせ直ぐに飽きるだろう

ベグライターにしようとするのは興味本意なんだろうと決めつけていた私は直ぐに捨てる、または犬死にでもさせられるんだろうと当たりをつけ、その時にでも逃げようとこれからの事を考えてから仕方なしに腹をくくることにした



「では、交渉成立ということで。これからよろしくお願いいたしますね?アヤナミ様」

「ああ」

立ち上がり礼儀正しくお辞儀をした私に、アヤナミは満足そうに頷いた



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