歌の翼

□玖楼国U
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暗く、寒くなってきた砂漠を私達は遺跡を目指して歩いていた。暑いイメージしかない砂漠が、夜になるとこんなに寒いなんて思ってもいなかった。あの時、泊めてもらえなかったらどうなっていたことやら…
私は冷たくなってきた手をポケットへと突っ込む。それを見られていたらしく、黒鋼が私に声をかけてきた

「小娘」

そう私を呼ぶだけで内容はない。だけど、何を聞きたいのかはわかっていた

「少し寒いけど、まだ我慢は出来るよ」

大丈夫
そう言っても納得しないであろう黒鋼に私は素直に答える。どうやらそれで一応は納得してくれたらしく「もうすぐだ」と言う代わりにフードを被った私の頭を撫でた

お父さんがいたらこんな感じなのかな

言ったら怒られるだろうから言わないけど、お父さんみたいに優しい黒鋼の行動に、心だけは暖かくなった

「…急いだ方がいいな」

本格的に暗くなった空を見上げながら哉汰はそう呟く。その行動、その言葉に何故か胸が疼く。意味のわからない感情。嫌な予感がする。自分の気持ちに対して嫌な予感がするなんて変な感じだが、本当に気づいてはいけないような気がした。今までとは違う、言うなれば…
そう考えようとしたけど、私は自主規制した。それすらも止めておいた方が良いような気がしたから

「うん。もう少ししたらまた急に眠くなるかもしれないしね」

棒読みにだけはならないように気を付けながら、ほぼ無心で哉汰の言葉に答える
そんな私の言葉の後に

「そうしたらまた時間、戻っちゃうのかな」

と、モコナが疑問を漏らした

確かにその考えはあり得る。モコナの疑問に肯定しようとしたとき

「……いや、遺跡に入ればおそらくそれはない」

『小狼』はそれを否定した。それに首を傾げていると黒鋼が代わりに質問した

「何故わかる」

「俺の考えが正しければあの日のまま、遺跡の中の時間は止まっている筈だから」

そう言って『小狼』は遺跡の中へと続く扉を開く。いや、開いたのは『小狼』ではない。そうする前に"勝手に"扉が開いた。中に入れと言うように

「歓迎されてるみたいだねぇ」

「「上等だ」」

目の前に広がる暗い空間
ファイや黒鋼、哉汰はこのことに不敵に笑い、中へと足を踏み入れた『小狼』の後に続く

「歌羽…?」

ただ一人、動こうとしない私にフードの中にいるモコナは首を傾げながら名前を呼んだ。私の心理を悟ったように

「怖いけど…皆がいるから平気だよ」

そう、一人じゃないから

モコナに対して言うふりをしながらそう自分に言い聞かせる。そう言い聞かせないと不安で押し潰されそうだったから
それを知ってか知らずか、モコナは私の頬に擦り寄ってきて「うん、皆一緒だよ」と呟いた。それに勇気をもらいながらわざと振り向かずにゆっくりと私を待つように歩く四人の後を追った
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