歌の翼
□玖楼国T
1ページ/16ページ
日本
「侑子、さっきの四月一日の対価じゃ足りなくないか?」
モコナが飛王に一矢報いられ、腕を押さえながら木に寄りかかる侑子に話しかける
「ええ、そうね。あれは『小狼』、黒鋼、ファイの分。歌羽と哉汰の分は足りないわ」
「ならどうしてだ?」
対価は少なすぎても貰い過ぎてもいけない。そう言う侑子が追加の対価を要求しないのはどう考えても可笑しい
そう考えたモコナは不思議そうに侑子の肩の上に乗りながら首を傾げる
「ちゃんと貰っているからよ。でも、それを皆には伝えないでほしい。それがあの子の願い」
「あの子?」
あの子とは歌の巫女のことだろうか。そうモコナは直感したがそれはハズレだったようだ
「歌羽よ」
「!?だが…」
歌羽本人は全くそんな素振りを見せなかった。悲しそうにうつ向いてはいたけど、それは四月一日に対しての想いだろう
どういうことなのか驚きを隠せないでいるモコナが説明を求める
「四月一日と同じよ。あの子もあたしに記憶を渡した。でも、最近じゃないわ。あの日会ったよりももっと前、あの子が産まれて自分の使命を聞き、そして夢を視た。それがどんなものなのかはしらないけれど、四月一日が払ったものだけでは足りないから。それだけを伝えてあの子は自分の記憶を差し出した。母親である巫女との大切な記憶を」
「…だから、歌羽は知らなかったんだな。自分が産まれた理由を」
「ええ。でも巫女はこうなることをわかっていた。だから、その時が来たら自動的にそれを思い出させるように暗示もかけていた。愛するもの達皆を守るために」
怪我した左手を押さえながら悲しそうに話す侑子。次元の魔女と言われる彼女がこんな表情を見せるのは珍しい
…いや、そうでもないな。四月一日や歌羽、小狼達の事になればいつもこのような表情をする。どうか、皆の未来が幸であることを願うように
「巫女の悪い癖は自分を犠牲にすること。それは優しさとは言わない。最初はそんな巫女に似すぎる歌羽が心配でならなかったけれど、彼女は変わったわ。旅をすることで彼らが変わったように」
「ああ。今の歌羽は自分の事も大切にしてる。己の痛みは他人のものでもあると知ったから」
「記憶を失い、笑わなくなった歌羽はある人によって笑顔を取り戻した。それは、今も消えていない。あの笑顔が、二度と消えなければいいのだけれど…」
ここから先、侑子達に出来ることはない。後は歌羽が決めていくこと。その選択が、彼女達にとって幸であることを願った――