歌の翼
□日本国
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哉汰side
「……」
目を開けるとそこは見馴れない天井。そして俺は清潔そうな白い布団で寝ていた。服も見馴れない物。誰かが着替えさせてくれたんだろうか。怪我した所も手当てされているみたいだし…怪我?
「!姫宮は!?」
布団から飛び起きる。その時、近くで気配が動いた
「誰だ!?」
側に置かれていた凜を掴み構えその気配を改めて見据えると
「も、申し訳ございません。驚かせるつもりは無かったのですが…」
少し幼さが残る女が本を片手に身を引いている。敵というわけではなさそうだ
「‥いや、こっちも悪かった。あんたは?」
「あ、はい。えっと、白鷺城で医師の助手をしております神菜(かんな)と申します」
持っていた本を横に置いて座り直し、礼儀正しくお辞儀をする神菜。何故医師の助手というやつが本を?
「哉汰だ。白鷺城ってのはここのことか?」
俺の質問が可笑しかったのか、神菜は不思議そうに首を傾げる
「はい。あの…白鷺城を知らないと言うことはどこか遠くから来られたのですか?」
どうやらこの白鷺城というのは相当有名な場所らしい。例えば…この国を納めてる所、とかだろうか
「ああ。こんなことを聞けばまた不思議がられるんだろうが、ここはなんて国なんだ?」
「‥日本国です」
黒鋼の国!…というより
「黒鋼達は!?」
肝心な事を忘れていた。無事に皆移動できたのだろうか。ここで手当を受けてるってことは多分黒鋼は移動出来たんだろうが、他の皆は…
「あ、黒鋼様とそのお連れさま…ファイ様と小狼様とモコナ様でしたらもう起きてられますよ。確か…さくら様のご様子を皆で見るとおっしゃられてました」
ファイも無事に移動出来たのか…よかった
でも、姫宮の名前が出てこなかった
「姫宮は…?」
俺は恐る恐る聞く。どうか彼女があいつの名前を知っていることを願いながら
「えっと、それは歌羽様のことでしょうか…?」
「!ああ、そうだ」
俺は掴みかかるかのように聞く。あいつの名前を知っていてくれたことに安堵しながら
「今は寝ておられます。姫様がおっしゃるにはしばらくはこのままだろうと」
「そう‥か」
魔力の消耗が多かったんだろうな。あれだけの力を使ったんだ、2〜3日は目を覚まさないか…
「で、ですが、外傷もほとんど見受けられませんでしたし熱も出てませんし…その、すぐに目を覚ますと思いますよ!」
神菜は俺を安心させようと寝てる以外は異常はないと教えてくれる。どうやら俺は不安そうな顔をしていたみたいだ
でも、寝てる以外は何もないというのも可笑しい。いくら『歌羽』の魔力を引き継いでいてもあの状況下なら…死んでもおかしくなかった。謎は残っているが、これ以上神菜に気を使わせるのも悪い
「…そうか。ありがとな」
「いえ!大切な方なんですね」
そう言われて俺は一瞬固まる
「…そうだな」
バレないだろう。そう思ってたが、意外と鋭いらしい
「あの、どうかなさったんですか?あ、もしかして私余計なことでも…?」
神菜は慌てたように謝る
…駄目だな、あいつのことになるとポーカーフェイスが崩れる
「いや、違う。いろいろと、あってな…」
苦笑い気味に答えるといつのまにか握り締めていた手にそっと神菜は自分の手を添えた
「?」
「あの、何か困ったことがあったらおっしゃってくださいね!」
「え?」
「患者さんの精神状態を安定させるのも私の役目です。自分一人で抱え込むよりも人に話た方が楽になることもありますし。あ、私なんかでよければなんですけど…」
また気を使わせてしまったみたいだ。でも、その言葉はすんなりとはいってき、俺を安心させてくれる
「ありがとう。そういや、神菜はずっとここにいたのか?」
俺は右側に置かれた本を指差しながらずっと気になっていたことを聞く
「はい。黒鋼様からの命だったので」
「黒鋼が?」
何故?俺は聞き返すと神菜も意味がよくわかっていないらしく首を傾げながら答えた
「哉汰さんがバカな事をしないように見張っとけとの言いつけで、絶対に一人にするなと」
「…なるほどな」
「それと、起きたら哉汰さんを黒鋼様の元に連れてくるように言われましたので」
動けますか?と神菜は中腰で俺を見る
「大丈夫だ。悪かったな、面倒かけて」
凜は…置いてくべきか。姫がいる手前だろうし、他国の城内で剣を持ち歩くのは不味いよな
俺は手に持っていた凜を壁に立て掛け
「いえ、お気になさらないでください」
と言う神菜の後ろをついて行った