歌の翼
□東京U
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哉汰side
ファイを助けた…とは言い難い光景に俺は目見張る
グチュ グチッ‥チ
という嫌な音を立てて小狼は血だらけの手で何かを食べていた。その目は
「青い…」
まさ…か
ひとつの仮説に俺がたどりついたとき、小狼がファイをグイと立ち上がらせる。そして出血の多い目とは逆の目に手を近づけた
「やめろ!!」
黒鋼も俺と同じ考えにたどりついたのか、小狼の元へ行き腕を掴む。俺は姫宮を抱いたままだったためその場に思いとどまった
小狼が黒鋼に蹴りを入れ、ファイのもう片方の目を喰おうとする。それを止めるために小狼を投げ飛ばす黒鋼
沙羅ノ国でも二人の戦いは見たことがあるが、それとは訳が違う
「姫宮…頼むから起きてくれ……」
こんな状況を見せたくないという気持ちと、姫宮ならどうにかしてくれるんじゃないかという気持ちがごっちゃになる
身体の痛みを感じないのか、腕が折れた音がしたのにも関わらず平然と立ち上がる小狼はファイの魔法を使う
容赦なく黒鋼とファイに攻撃する小狼は俺の知っている小狼とは違った。言うなれば…羽根だけを探させるためのロボット
黒鋼が小狼に訴えるが、今の小狼にはその言葉は届かないらしい。その目には光を宿していなかった
これらだけでも信じ固いことばかりなのに、もっと信じがたい事が目の前で起こる
キィィィィという聞き覚えのある音と、見覚えのある魔方陣と共に黒鋼達を守るように小狼の前に現れたのは左目に眼帯をしたもう一人の『小狼』
そして
「みんな…!」
最悪のタイミングでさくらが目を覚ました
「どういう事だ!?」
黒鋼の言葉が響く
小狼の胸元から光る玉がもう一人『小狼』に飛んでいく。それを受け取って『小狼』は口を開いた
「心の半分。俺が昔お前に渡したものだ。一度封印が切れたものをその魔術師がお前に戻そうとしたんだな。その奪われた左目と共に」
「…!」
「まさか…わざと?」
黒鋼もファイを見るが、気絶しているため答えてなどくれない
「けれど…切れた封印はもう、どんな方法を使っても戻らない。魔術師もわかっていたはずだ。それでもかけたんだろう。可能性に」
光る球体は『小狼』の中へと入っていき、そいつは左目の眼帯をはずした