緋色の少女

□第四章
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その予想はやはり当たった
コンコンコンッと三回軽くノックすれば中から返事が返ってくる。それをしっかりと聞いてから私は中へと入った


「どうした」


入る前に名を告げていた為アヤナミは書類から顔を上げずに私に要件を聞いた。そのデスクの上には山積みとはいかずとも、それなりの書類が積み上げられている


「…さっき渡し忘れた書類を持ってきました。どうやら次の会議の資料のようですよ」


依然とペンを走らせながらご苦労、とだけ告げた彼を暫く見つめた

いつもこんな時間まで仕事をしているのだろうか…?

積み上げられた書類から推測するに、どんなに早く片付いたとしても後2時間はかかり、日付は優にこえるだろう。勿論推測であるため書類の内容によれば睡眠が3、4時間、というのもあり得る
別に私の知ったことではない。やれ、と言われてないのだから私はする必要はないのだ

でも…


私はデスクから半分程の書類を持ち上げ、センターテーブルへと移動しいつも常備しているボールペンを出した。何をしている、というアヤナミの視線に、私は書類に目を通しながら答えた


「…私が早くあがったせいであんたの睡眠時間が短くなったなんてことになったらベグライターの名が落ちるから」



相変わらずの憎まれ口だ。ベグライターの名なんて気にしたことないくせに。素直に手伝うと言えばいものの…と思ってもできない性格なのだから仕方ない

それに、内容からしていつも私に回ってくるようなものばかり。つまり、元々は私がするはずだったのだ
それを、アヤナミに押し付けるのはなんだかいやだった



「…それで寝坊したと言われるのも困るのだがな」

「ヒュウガじゃあるまいししないわよ、寝坊なんて。人が折角やるって言ってるんだからお言葉に甘えときなさい」


「もっと可愛く言えば良いものの」、なんて言葉が聞こえた気がしたが無視だ、無視。そもそも、私に可愛さを求めるのが間違えなのだ


そして二人で手分けした甲斐あってかそれらは約1時間半で片付けることができた。流石に日付は変わってしまっているが、睡眠時間はそれなりに確保出来そうだ
限界に近い目を擦りながら、私はアヤナミにチェックをお願いする。よくもそんなにずっと机に向かってられるものだと内心感心しながら、朦朧としてきた頭を懸命に叩き起こしていると「ご苦労だった」、と短い言葉をかけられた

その言葉で終ったという達成感にほっと一息つき、私は伸びをした。流石に今日は本を読んだりと趣味にぼっとうする元気も時間もない。さっさと部屋に戻ってシャワーを浴びたら寝てしまおうとこれからの事を考えながら歩いていると今気づいた。アヤナミが隣を歩いていたことに

アヤナミの部屋は私の場所と逆方向にある。しかもこの先はプライベートルームしかない。アヤナミが用事のある人間は確かいないはずだ
まぁ彼女とかがいるのなら知らないが




チクッ



何故だろう。何か今悲しい…?

疲れだろうかと思いながら部屋に到着した私は当然足を止める。その横でアヤナミも足を止めた


「…なんだ」


もしかして送ってくれたのだろうか

お礼を言うべきなのかと彼を見つめていると、アヤナミの口が弧を描いた


「誘ってるのか?」

「なっ、そんなわけないでしょ?!」



予想だにしていなかった言葉に私は虚をつかれて言葉がどもった
それと同時にお礼を言う気が失せ、きっと私が知らないだけでこの先に知り合いがいるのだと完結する


「……お疲れ様でした。お休みなさい」


…お休みするかは知らないが

私はさっさと退散してしまおうと扉に手をかけたとき、何故かアヤナミに引き留められた。なんだと振り返ろうとすれば、まるで言い逃げするかのようにアヤナミは言うことだけ言って歩いていってしまった


「っ、一瞬でも嬉しいと思った私の気持ちを返せ!!」


近所迷惑きまわりないことは重々承知していても抑えることのできない気持ちも時にはある






"美味かったーーー手抜きにしてはな"







悪かったですね!手抜きで!!

勢いよくとびらを閉めた私を、驚愕しつつも微笑んでいたアヤナミがいたことなんて当然私は知るはずがない


「可愛い所もあるじゃないか」


来た道を戻りながらご機嫌なアヤナミとは正反対に扉の前でうずくまる私

ありえないありえないありえない

その言葉ばかりが頭の中でこだまする
何あれ。嬉しいってなに。アヤナミよ?人拐いよ?ドSで鬼畜で、俺様なのよ?ありえないありえないありえない。ヒュウガならまだしも…いや、ヒュウガも無いけど、あのアヤナミの言葉に嬉しいって、ドキッてなに!?


「…あいつとは違うって……」


そんなこと百の承知。確かに似てるけど重ねたことなんて無い
ならこの鼓動はアヤナミのせいで乱れてるの……?



「ありえない……」



きっと疲れてるんだと思考を止め、私はさっさと寝る準備を済ませてベットへと潜り込んだ



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