緋色の少女
□第二章
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「……中佐」
「だからク、ロ、ユ、リ」
「ちゅ、う、さ?そろそろ降りてもらえませんか?」
「名前呼んでくれたら降りてあげる」
私の膝の上に座り首に腕まで回すクロユリに、私はため息しか出ない
ベグライターになって早1カ月。私の予想期限を越えたが今だ開放される気配がない。しかもーー
「クロたんだけずるいー」
「クロユリ様、そろそろ降りて差し上げた方が…」
「あの、この資料なんですがーー」
うん。なつかれた
コナツは分からなくもないけど(ヒュウガの分の仕事を手伝っているから)クロユリ達にはなつかれる意味が分からない
というより邪魔なんだけど。仕事できないんだけど。微笑ましそうにせずに助けろよ大佐!!
デスクに向かう私の四方には人、人、人、人
ねぇ、マジでどけて?
一向に仕事が進まないのに目の前の書類だけが増えていくことに少々苛立ちを覚えていると
「…アル」
助け船を出してくれたのは意外にもアヤナミだった
「あ、はーい」
外から戻ってきたアヤナミに連れられて、私は彼の執務室へと入った
「追加だアル。…何をしていた」
「了解です。…さぁ?私にもよくわかりませんが、なつかれたんですかね」
また増えた…と私された書類を軽く睨む
アルとは私のここでの呼び名。無いと不便だからと、名前を聞き出すことを諦めたヒュウガとクロユリが付けたものだ。どっかの国の言葉で真紅という意味らしい
本当はこれに決定する前にいろいろと他に案が出ていたのだがそれらは全てアヤナミが却下していた。私としては名前1つに半日もかけないでいただきたかったのだが…まぁ終わったことをむし返しても仕方がない。それに言わないが、この名前は結構気に入っていたりする
そういえばその時くらいからだろうか。この男が私を捨てない予感がしてきたのは
「…何故貴方は私をここに置くのですか」
ただの気まぐれだと思っていた。使い捨てに丁度いいからだと思っていた
なのに、この人は私を戦に出すことをしない。仕事だって1日こなせる程度しかやらせないのだ
確かに私が一人になることなんて部屋に戻った時くらいだし、ほぼ毎日デスクワークがあるため外に出る余裕なんてない。ほとんど執務室に縛られっぱなさしだ。それでも、この人はそれ以外では干渉してこないし、私を本当にベグライター以外の使い道をする素振りを見せなかった
「デスクワークをこなせる人間なんて他にいくらでもいるはずです。なのに何故、貴方は私を側に置く」
ここは、あの場所とは違う。この人はあの人とは違う。なのになんで、こんなにも期待しているのだろうか
「お前はその問いに何を求めている」
「……別に、ただの純粋な疑問です」
見透かされている。そう思った
書類から目を離し私を見据える冷たい瞳
ほら、やっぱりあの人とは違う
「案ずるな。手放したりなどせぬ」
「!なに、言って…」
「ここから逃げる機会はいくらでもあった。だが、それでもお前はそれをしなかった。つまり言葉とは裏腹にお前はここにいたいと思っているのだろう」
「ち、違う!」
そう、違う
私がいたいのはあの人隣。この男の隣ではない。いくら顔が似ていても、くれる言葉はどれも違う。欲しい言葉は言わずともくれるあの人と、わかっているのにそれを言わないこの人とは
「ふっ、珍しいな。しおらしいお前は。その態度の方が私は好みだ。脆くて、従わせやすい。手間が省ける」
「…知らないわよ、そんなの。誰があんたの前でしおらしくするものですか。お望みとあらば今日にでも脱走してやる」
「ならば戻ったときは私と相部屋にしてやろう」
ほら、さっさと脱走してみろと言うように楽しそうに口角上げるアヤナミ。逃げようにも首元をぐるぐると回るザイホンが目障りで仕方がない。それでも、逃げようと思えば逃げられるのだ。ザイホンではない、私の生まれたときか備わっているこの力を使えば
なのにそれをしないのはきっと、この男の言った通りなのだろう
「………失礼します」
腹が立つ。満足そうに笑ったこの男を一瞬でも格好いいと思ってしまったことが
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