nagi
□その名は(ナギ×主人公恋人前設定)
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…本当に世話のやける奴だ。
市場の親父、通りすがりの若者、駆け回る少年、路地裏の破落戸、酔っ払いに行き倒れの爺にまで…なんでいちいち絡まれるんだ。
まだガキだぞガキ。しかも鈍臭ぇしうるせぇしじゃがいもの皮むきも下手くそで…
…まぁ、根性はあるが。顔もまぁ…いい方かもしれねぇ。特に笑顔が。何より真っ直ぐなところがいい。それにいつもナギさんナギさんって尻尾振って駆けてくる姿が堪んねぇ…じゃなくてっ。とにかく、なんであんなガキに雄共が群がるんだ。
昨日の買い出しでも、
「可愛い娘さんだねー!これサービスしとくよ!」
「ありがとーございますっ!おじさん太っ腹ーっ!」
「くーっ、後二十年早く出逢ってたらなーっ!もう一つサービスだっ!」
「やったーっ!おじさんありがとっ!」
「…。」
「ナギさんどうかしました?」
「…いや。」
どこの店でもこんな感じだった。
だが、こんなのは日常茶飯事。それよりもあいつはいつも少しでも目を離すと、絡まれ攫われそうになる。
なのに今、事もあろうかあいつひとりで出掛けていやがる。昨日の晩、船長に頼んでいやがった。ありえねぇ。同室で世話係の俺としては、まだガキのあいつが雄共の毒牙にかかるのを黙って見過ごす訳にはいかねぇ…
「そこの君、さっきから見てたんだ。凄く可愛いね。」
「あ、ありがとうございます。」
「良かったら、これからお茶でもどうかな?」
「えっ?いや、用事があって。すみませんっ。」
「困った顔もチョー可愛いじゃん!やっぱり君と一緒にいたいな!行こう?」
「あっ、あの…」
「ねーってっ…ひぃいっ!!?しっ、失礼しましたっ!!!」
「??…どうしたんだろう?」
はぁ…これで5人目か。…たくっ、船降りてまだ三十分だぞ。全員、鎖鎌ちらつかせた俺の視線に気付いて逃げていったからいいものの。やはり、本当は今日する予定だった食料の整理やら保存食作りやらを昨日徹夜で終わらせて、後ろから付いて来て正解だったな。…にしても何処に向かってるんだこいつ。んっ?なんか店入りやがったな。なんの店だ?ヤマトの食材店か?ちっ、それなら昨日の買い出しの時に言えばよかったじゃねぇか。言えば買ってやんのに。…今日の晩飯はヤマト料理にすっか。
「おじさんっ、ありがとうございました!」
「いやいや、こちらこそだよ。久しぶりに同郷の人と話せて楽しかった。ありがとう。」
「いえ、そんな。また来ます!って言ってもいつこの港に来るかわからないけど。でも必ず!」
「ああ、楽しみにしているよ。気をつけて帰るんだよ。」
「はいっ!本当にありがとうございました!」
両手で大きな紙袋を抱えたあいつが店から出てきた。ちっ、また愛想振り撒いてやがる。
「ふんふん〜っふふんっ♪」
あいつ、店出てからというものえらく上機嫌で鼻歌まで歌ってやがる。欲しかったもん買えたようだな。よかった…ってか、まだ船に戻らねぇのか?港と逆方向に行ってるじゃねぇか。
「ふんふん〜♪あれっ?ここどこだろう?…もしかして、わたし迷った?どどどっ、どうしよう…」
ちっ、あいつ迷ったのか?…仕方ねぇ、俺が…
「おっ、姉ちゃんべっぴんさんじゃねぇの?俺達と遊ばねー?」
「い、いえっ。遠慮しときます…っ」
あいつまた…破落戸A、B、Cに絡まれてやがる。
破落戸A「つれねーこと言うなよ。優しくしてやるからさー。こっち来いって。」
「いやっ!止めて下さい!」
破落戸A「ほらっ、暴れんなってって…あべしっ!!」
「…俺の連れに何か用か?」
「あれっ!?ナギさんっ?」
破落戸B「なんだてめぇ!?」
「…何やってるんだ、お前は。」
「ナギさん、すみません。ご迷惑おかけして…。」
破落戸B「そんな危ねぇもん振り回して何考えてんだコラけばぶっ!!!」
破落戸C「そ、その鎖鎌は…裏切りのナギ!!?ヒィイイィッ!!お助けーっ!!」
「…はぁ、おい無事か?」
「ナギさん本当に助かりましたっ。ありがとうございます。」
「…ならいいが、もう少し危機感を持て。」
「すみません。でも…ナギさんはどうしてここへ?今日は昨日買った食料の整理や、保存食作りで忙しいって昨日言ってたのに。」
くそっ、普段鈍いくせしてこんな時に限っていきなり核心突いてきやがった。
「…いや。その、なんだ。…昨日の買い出しで買い忘れた物があってな。」
「そうだったんですか?じゃあ帰ったらお手伝いしますねっ!」
「…いや、だいたい終わらせて来たから大丈夫だ。」
本当は昨日徹夜で終わらせたんだよ。
「あっ!そうですっ!あの、これ…。」
「…なんだ?これ…。」
そう言うこいつの手には先程買っていた紙袋。…中身は、…ヤマトの調味料か?いったいなぜ。
「ナギさんこの間、ヤマトの調味料に興味があるってお話していたので。昨日の買い出しの時にこのお店見付けて…でも昨日は荷物いっぱいだったから、今日見に行ってたんです。これが柚胡椒でこっちが赤味噌で、このお醤油は普通のお醤油より甘くて美味しいんです。それから…」
…じゃあなにか?こいつが昨日わざわざ船長に頼んでまで今日出掛けたのは俺のためか?
「…本当はナギさんと一緒に行きたかったんですけど、今日は忙しそうだったので。お手伝いもせずに出掛けちゃってすみませんでしたっ。」
「…いや。」
「いつもお世話になってるお礼ですっ!」
「…そうか、…そろそろ戻るか。」
「はいっ!」
また、鼻歌混じりで先を歩くこいつの背中がなんとなく、他の奴より明るく見えた。
「…○○、ありがとな。」
「っ!?はいっ!」
無自覚無警戒、極度に鈍感なこいつは、群らがる雄共の下心に全く気付かねぇ。同室で世話係の俺としては、まだガキのこいつが雄共の毒牙にかかるのを黙って見過ごす訳にはいかねぇ…
「…同室の俺が守ってやらねぇと。」
そして今日も俺の鎌が唸るのだ。
「なぁ、せんちょー。」
「んあ?なんだ、ハヤテ。」
「あれってさ、
ストーカーって言うんじゃねーの?」
「んまーそうとも言うかな。」