黒と白の狭間

□飲めず食えず
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「ひもじいよ〜」

「ひもじいアル〜」


新八と神楽はお腹の音を響かせながら、ソファの上でだれていた。


「くぅ〜ん…」


神楽が寝そべっているソファの後ろで、定春もひもじそうにのびていた。


「なんでこんなにひもじいアルか?不景気か?不景気がいけないアルか?」

「あー…不景気だよ、万事屋はいつも不景気だよ…。なんで僕達ばっかりこんなひもじい思いをしなくちゃいけないんだよ。世の中の普通の人は普通にご飯たべてるのにさぁ〜…」


いつもの椅子に座っていた銀時は、あーあーあーと二人の文句を遮るように声を上げた。



「お前らよォ、いい加減にしろよ」



そして、大きくお腹の音を鳴らした。


「銀さんだってなァ、すっごくひもじいんだよ、今にもその辺の畑から野菜取ってきちゃいたいくらいなんだよ。そもそも新八、お前は家に帰れば飯くらいあんだろーが!」


新八は顔に青線を何本もたらしながら答えた。


「いやね…僕がご飯を作れればいいんですけど…今、姉上が料理強化週間とかで台所独占状態なんですよ。姉上の作ったものを食べるのは…」

「あー…苦労してんだな、お前も」


銀時は同情した。



「ただいまー」



そんな暗い空気の中、一際明るい声が響き渡った。


「おかえりアル!咲夜、何か食べ物は手に入ったアルか?」


咲夜は、まさか万事屋がこんなに収入が不安定だとは思わず、今まで普通に三食の買い物をしていたことに責任を感じ、小銭が数枚しか入っていない財布を持って食料調達に行っていたのだ。



「まあ、一応ね…これ」


ひろげたビニール袋に入っていたのは大量の食パンの耳だった。


「…ひもじいアルね」

「…ひもじいですね」

「だよね…ごめんね…」


ずーんと重く渦巻いた空気が三人を包んだ。

銀時は袋の中からパンの耳をひとつ取り出して口に放り込んだ。


「咲夜がわざわざ手に入れてくれたもんに文句つけんな、お前ら。ほら、咲夜を見習え。ひもじいとか、そんな文句言ってねーだろーが」

「銀ちゃん…」

「ん?どーした、咲夜」


咲夜は自分のお腹をおさえて、悲しげに銀時を見上げた。


「私も、ひもじいよ…」


万事屋全体が悲しく重い空気に包まれた瞬間だった。
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