短編集01

□大切に
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珠「ヤバいよっ

めっちゃ降ってきた

玲奈ちゃん急いでっ」



玲「っあ、珠理奈待ってー」



仕事終わりに珠理奈がいきなり"玲奈ちゃんの家行きたいっ"なんてしつこく言うから、渋々承諾した訳だけど…



玲「何で雨雲まで一緒に連れてくるかなー」



駅から家までの道を、二人で走りながら珠理奈にそう言うと



珠「連れて来ようと思って、連れて来たんじゃないもんっ

勝手に着いて来たんだよ」



そんな話しをしていると、私が一人暮らしをしているマンションが見えて来た



珠「…ねぇ、玲奈ちゃん

あれって人じゃない?」



玲「っえ?

ほんとだっ」



慌てて駆け寄ってみると、小さな女の子だった



その女の子は少し肌寒くなってきているというのに、ぼろぼろのカッターシャツに短パンで裸足という格好だった



珠「…玲奈ちゃんどうするの?」



玲「放っとけないよ…

珠理奈手伝って」



二人でその子を私の家に運び、とりあえず濡れたままじゃ風邪をひくから着替えさせようと、シャツのボタンを外していった



玲「………何これ…」



珠「酷い…」



女の子の身体には無数の傷があり、骨が浮き出る程痩せていた



何よりも目を引いたのが、首に付けられているものだった



玲「…これって、首輪だよね?」



珠「多分…

ご丁寧に鑑札まで付いてるよ」



首輪には"H.12 POCHI"と書かれていた



玲「H.12は平成12年の事で、きっとこの子の産まれた年だよね?

けどこのポチって…

まさか、この子の名前じゃないよね…?」



珠「分からないけど、完全に否定はできないんじゃないかな?」



その後は二人供黙り込んでしまった



-数分後



『ん…』



女の子が目を覚ましたみたいで、身体を起こして周りをキョロキョロと見回していた



玲「…起きたみたいだね

何か飲む?」



私が声を掛けると布団から飛び出して部屋の隅に行き、警戒するように唸りながら私と珠理奈を睨んでいた



その光景に思わず珠理奈に目でSOSを訴えると、珠理奈は声を掛けながらゆっくり女の子の方に寄って行った



珠「大丈夫…

怖くないよ?」



そう言って珠理奈は女の子の前に掌を出して、彼女が動くのを待つ



すると初めは更に警戒して歯を剥き出して唸っていた女の子が、珠理奈の手をクンクン匂って大丈夫だと思ったのか、ペロッと舐めた



珠「おいでっ」



と珠理奈が両手を出すと、ガバッと飛び付いて行った



玲「さすが珠理奈」



珠「えへへー

照れるなー

玲奈ちゃんも、そんな所にずっと立ってないでこっち来なよ」



珠理奈にそう言われて、珠理奈の隣に座る



するとそれまで珠理奈とじゃれていたのに、また部屋の隅に行って私をじっと見る



玲「ちゅーん…(´・ω・`)」



それを見ていた珠理奈は楽しそうに笑うと、女の子に向かって手招きする



珠「あははっ

大丈夫だよー

おいでー」



すると明らかに警戒しながら、おずおずとこっちに寄って来る



玲「怖くないよー

お友だちになろ?」



さっき珠理奈がしたように、女の子に掌を向けてじっと待つ



暫く警戒しながら私の匂いを確認した後スッと寄って来たと思ったら、私にしがみ着いて顔をグリグリと擦り付けた



玲「くすぐったいよー」



珠「仲良くなれたみたいだねー

良かった良かった」



玲「珠理奈が最初に行ってくれたお蔭だよ」



珠「私のお蔭かー

ならお礼のちゅー」



そんな珠理奈を無視して、女の子に話し掛ける



玲「ねぇ、君名前は何て言うのかな?」



そう言うと言葉を理解しようとしているのか、女の子はじっと私の目を見つめて来る



改めて見てみると女の子の目は透き通った茶色で、凄く綺麗だった



暫く見つめていると、小さな声で"ポチ"と言った



玲「…お父さんや、お母さんからそう呼ばれてたの?」



『お父さん、いない』



珠「ならお母さんと二人暮らしだったの?」



"お母さん"と言う言葉に、ピクッと反応した



『…かえる、いやっ』



そう言うと、ギュッと私の服を掴んだ



そんな彼女を心配そうに見つめる珠理奈に、1度だけ力強く頷いた



玲「大丈夫だよ

私が守るから…

今日からここで一緒に暮らそ?」



珠「ぅええ?!

って玲奈ちゃん仕事は?!

それにこの子まだ13才だよ?!

いろいろ問題ありすぎるって」



玲「大丈夫、何とかなるよ」



珠「大丈夫じゃないよ」



玲「なら珠理奈は、この子を母親の所に返せって言うの?!

母親に返した所で、また同じ事されるだけだよっ」



『ごめ、なさい…』



その小さな声にハッとして、珠理奈と二人して女の子の方を見る



女の子はその小さな肩を震わせて、目に涙をいっぱい溜めて私達を見つめていた



珠「あー…

違う違うっ

君のせいじゃないよ?」



玲「そうそうっ

それに私達喧嘩してるわけじゃないし

ね、珠理奈っ?」



珠理奈が首を千切れんばかりにブンブンと縦に振ると、やっと少しだけ表情が和らいだ



珠「んー

けどほんと、どうするつもりなの?」



玲「わかんないっ

けど、何とかなるよっ」



珠「玲奈ちゃんって、意外に頑固だよねー

まぁ、あたしも出来る限り協力するよ」



玲「ありがと珠理奈っ

あ、そうだ

一緒に暮らすんだし、いつまでも君じゃダメだよね」



珠「名前考えなきゃだねっ」



『…ポチ』



玲「違うよ

今日からは、ちゃんと人として生活するんだよ?」



そう言って髪を撫でると女の子は何も言わないけど、ギュッと腕に力を入れた



珠「名前は?」



玲「どこから出てきたの?」



珠「いや何となく見てたら、その名前が浮かんで来たんだよー」



玲「名前ちゃんかー

うん、良いと思うよっ」



『名前?』



玲「そう

今日から君は名前ちゃんだよ」



そう言うと何度か自分の名前を呟き、私と珠理奈を交互に見てから満面の笑みで



『名前っ!』



と言って、今度は珠理奈にギューと抱き付いていた



玲「珠理奈が考えた名前、気に入ったみたいだねっ」



珠「えへへー

気に入ってもらえて嬉しいよっ」



そんなこんなで、私と名前ちゃんの生活が始まった
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