短編集02

□君だから
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『……ただいまー…』



多分寝てるだろうから、物音を立てないようにそっと家に入る



-カシャン



いつもの場所に鍵を置いて、廊下の突き当たり……リビングを目指す



-キィー



『……悲惨…』



そっとドアを開けたそこは、泥棒でも入ったのかと思うくらいに荒れていた



でも部屋が散らかってる理由は分かってる……



玲「んー……」



部屋の奥の方で寝てる彼女…玲奈が友達と飲んだ後だ……



『……とりあえず片付けよ…』



一旦寝室に行って服を着替えてリビングに戻ると、ごみ袋を片手に静かに後片付けを始める



玲「んー……

……名前ちゃん?」



『あ……ごめん起こした?』



眠そうに目を擦りながら身体を起こす玲奈に近寄って、周りを起こさないように静かに聞いた



玲「ううん、大丈夫だよー」



そう言ってふにゃっと笑った玲奈を見て、相当酔ってる事を確信した



玲「名前ーちゃんっ」



『ん、何?』



玲「おかーえりっ」



嬉しそうにそう言ってくれる玲奈に、胸が暖かくなった



『ただいま』



頭を撫でながらそう言うと、玲奈が私に向かって両手を突き出して来た



玲「名前ちゃんギュッてして?」



そんな玲奈の額をコツンと小突いてやった



『まだ片付けが残ってるからまた後でね』



玲「えーヤダっ

今がいいのー」



拗ねたように唇を尖らせて駄々をこねる玲奈を、苦笑いで見つめる



『……酔っぱらい…

だいたいね、誰が散らかした部屋を掃除してると思ってんの』



玲「えっとねー……

優香ちゃんとー、ちゅりとー、珠理奈とー、ゆりあだよ?」



『玲奈もでしょうが……

って言うか、珠理奈ちゃんとゆりあちゃんってまだ未成年でしょ?!

まさかとは思うけど、飲ませてないよね?』



玲「まさかー

珠理奈とゆりあは、はしゃぎ疲れただけだよー?」



『ならいいんだ』



そう言いながら首を傾げる玲奈の頭を、ポンポンと軽く叩いてからワシャワシャと撫でる



『じゃあもう少しで片付け終わるから、大人しくしててね?』



玲「はーい」



もう一度頭をポンポンと軽く叩いてから、片付けに戻った



玲「ねぇ名前ちゃーん」



『何?』



玲「お水飲みたい」



甘えた声を出す玲奈をチラッと見ると、机に顔を付けてダラけてた



『甘えないの

水くらい自分で取りに行く』



玲「ヤダっ

うーごーけーなーいー!」



『っわ…バカ、しーっ!

みんな起きるでしょっ』



いきなり大声を出す玲奈に慌てて駆け寄って、玲奈の口を塞ぐ



玲「お水飲みたいっ」



子どもみたいな笑顔でそう言われて、結局折れてしまった



『はぁ……

分かった、取って来るよ』



そう言って渋々キッチンに行って、冷蔵庫からペットボトルを1本持って玲奈の所に戻る



『はい水』



玲「ありがとー」



『みんな起きるから、もう大きい声出しちゃダメだよ?』



水を飲む玲奈の頭に手を置いて、諭すようにそう言うと"分かったっ"ってニコッと微笑んだ



『いい子にしててね?』



玲「うんっ」



さっきも返事だけは良かったからなー……



そんな事を思いながら片付けに戻った



-数分後



『よし…片付け終了』



綺麗になった部屋を見回して、充足感に満たされる



『あれ……そう言えば…』



部屋が静かな事に気付いて玲奈を見ると、机につっぷしたまま眠ってしまっていた



あんな寝方してると身体痛くなるのにな……



一応アイドルだし、身体資本だからなー……



ちゃんと布団で寝て欲しいな……



『玲奈……玲奈?』



良く寝てたから起こすのも可哀想だけど、ここはやっぱり起こす事にした



玲「んー……?」



『そんな寝方してると身体痛くなるよ?

寝るなら寝室行こ?』



玲「……ん」



両手を突き出して来たから、その手を引っ張って立たせてあげた



玲「名前ちゃん……ギュッてして?」



『甘えたー』



そう言って抱き締めたけど、満更でもない



だって玲奈の体温とか匂い好きだし



玲「名前ちゃん暖かいねっ」



『玲奈も今日は暖かい』



玲「今日だけじゃないもん」



プクっと頬を膨らましてそう言う玲奈が可愛くて、更にイジメだくなる



『今日は飲んでるから暖かいだけじゃん』



玲「違うもんっ

暖かい時だってあるもん!」



そう言って身体を離して拗ねる玲奈を引き寄せて、耳元に顔を近付ける



『……エッチの時も暖かくなるもんね?』



玲「……っ//」



そっと耳打ちすると、耳まで真っ赤にして照れる玲奈



『あ、また暖かくなった』



玲「もうっ…

名前ちゃんのバカっ……」



そう言いながら上目使いになる玲奈の頬に、そっと手を当てて私の顔を見させる



『まだ帰ってからしてなかったね』



玲「……うん//」



『ただいま玲奈』



玲「おかえり名前ちゃん」



-チュッ



一緒に住むようになってから、行ってきますとただいまのキスが日課になった



いつもなら玲奈の甘い匂いで胸が一杯になるのに、今日のキスは……



『……酒くさい…』



玲「えへへー

名前ちゃんにお裾分けっ」



『それなら匂いじゃなくて現物を下さい』



にへーっと何とも締まらない笑顔で抱き付く玲奈を押し退けてそう言うと、本当にコップに残ってたお酒を口に含み出した



『いやいやいや、冗談だからね?!

口移しなんてしないよ?!』



焦って止めるのに、玲奈は私の頭をガシッと掴んで顔を近付けて来る



『いや、ちょっ……ん…』



重なった唇の隙間から生暖かい液体が私の口内に流れてくる



『………んー…!』



お酒を全部私の口内に移すと、そのまま玲奈の舌が入って来た



こんな事初めてだったからビックリし過ぎて、ちょっとだけ玲奈の舌を噛んでしまった



痛かったのか、玲奈が顔を離してくれた



玲「痛いよー」



舌を出しながら涙目でそう言う玲奈を見ると、私が噛んだと思われる所から少し血が滲んでいた



『ごめんね?

ちょっとビックリして噛んじゃった……』



頬を撫でながら謝ると、涙目の上目使いで緩く睨んでくる



『玲奈さん……

その顔は反則ですよ?』



私の言葉に可愛らしく首を傾げる玲奈を抱き寄せて唇を奪い、逃げる玲奈の舌を私ので絡め取って深く交わる



玲奈は相変わらずお酒の匂いがするし、口内は鉄の味がする……



それでも暫くキスを続けると慣れたのか何なのか、いつもの甘い匂いが戻って来た



玲「…ん……」



『……(今日の玲奈、いつになく積極的だ…)』



いつもなら手は私の肩口に置かれてるし、舌だって自分から絡めて来た事なんてなかった……



なのに今日は私の首に腕を回してるし、私のキスに応えるみたいに舌を絡めてくる



……もっと玲奈が欲しい…



腰に回してた腕を動かして服の裾から手を入れて、優しく括れをなぞる



玲「……っん…」



一瞬ピクッと反応したけど嫌がる様子もないから、そのまま手を上に持って行く



「おぉ………」



誰かの声に我に返って周りを見ると、寝てたはずの子達が顔を赤くしながらこっちを見てた



珠「お熱いねーっ」



ニヒッと笑ってそう言う珠理奈ちゃんに照れた玲奈が、私の胸に顔を埋めると私の服をギュッと掴んで自分の顔を隠す



『ごめんね、起こしちゃったね』



優「お構いなくー

それより帰ってたんだね」



『うん、さっきね』



優香ちゃんとは遊びに行く事もあるし、玲奈が所属するグループでは一番仲が良い



明「お帰りなさい

お邪魔してます」



『ただいま

明音ちゃん、こないだは試写会誘ってくれてありがとね

映画凄く良かったよ』



明音ちゃんも、玲奈繋がりで何度か会った事がある



それにこないだ、明音ちゃんが出る映画の試写会に招待してくれた



ゆ「はじめまして

木崎ゆりあです」



こっちの子は初めて会う子だけど、やっぱりアイドルだけに可愛い



『はじめまして、苗字 名前です

いつも玲奈がお世話になってます』



ゆ「いえいえ……

私の方がいつも玲奈さんにお世話になってます」



そう言ってゆりあちゃんに向き直って頭を下げると、慌ててゆりあちゃんも頭を下げてきた



『いつも玲奈から話しは聞いてます

ゆりあちゃんに癒して貰ってるって

……迷惑かけてませんか?』



ゆ「いやいや、迷惑だなんてそんな……」



玲「そうだよ

私ゆりあに迷惑なんてかけてないもん」



『いーや

玲奈の事だからアニメの話しとかして一人でテンション上がって、周りの子付いて来れてないとか良くあるでしょ?』



玲「それは……」



『ほらね、やっぱり迷惑かけてるじゃん』



玲「ごめんねゆりあ……

これからは気を付けるね」



シュンとして謝る玲奈に、笑顔で応えるゆりあちゃん



ゆりあちゃんの笑顔も可愛いなー……



玲「あー!

名前ちゃんが浮気してるー!

ダメだからねゆりあっ

名前ちゃんは私のだから」



ゆりあちゃんの笑顔を見つめてると、玲奈が慌てて抱き付いてきた



やきもち妬いてる玲奈も可愛いなー……



『大丈夫だよ

私が好きなのは玲奈だけだから』



そう言って頭を撫でてやると、額をグリグリと擦り寄せて甘えてくる



優「相変わらず仲良いねー」



ゆ「って言うか、玲奈さんって苗字さんと付き合ってたんですね」



優「あぁ……

まぁ恋愛禁止だし、ここに居る私達しか知らないよ」



ゆ「そうなんですね

付き合ってどれくらいになるんですか?」



『んー……

もうすぐ5年だったかな?』



ゆ「へー……

結構長いんですね」



明「でも付き合って5年なのに、未だに一回も喧嘩した事ないなんて凄いですよね」



『そう言えばした事なかったかも

どんな玲奈も大好きだから、喧嘩の原因になる事なんてないんだよね……』



玲「私も、どんな名前ちゃんも大好きだよ」



珠「ご馳走さまでーす」



満面の笑顔でそう言って抱き付く玲奈に、珠理奈ちゃんがニヤニヤしながらそう言った



優「そうだっ

せっかく帰って来たんだから、飲み直そうよ」



『えー……もうやめとけば?』



珠「えー

あたしもっと名前さんと話したい」



『良い子は寝る時間だよ?』



珠「あー、名前さんまたあたしの事子供扱いしたーっ」



ぶーなんて言って分かりやすく拗ねる珠理奈ちゃんに、ちょいちょいっと手招きする



珠「何ですか?」



そう言って私の前に立つ珠理奈ちゃんの頭を、玲奈を抱き締めてるのとは違う方の手でワシャワシャと撫でた



珠「ぶーっ……

それも子供扱いですよ」



『ははっ

ホント珠理奈ちゃんっていつ見ても可愛いよね

それに、これは子供扱いとはまた別物だよ

ただ単に可愛がってるだけだなんだし』



珠「名前さん……

大好きっ」



そう言って勢い良く抱き付いて来る珠理奈ちゃんを、片手で受け止める



玲奈は別に気にする事もなく、少し横にズレて珠理奈ちゃんのスペースを開けてあげてた



ゆ「……さっき私凄い敵対視されたのに、珠理奈さんはいいんですか?」



明「あー……

玲奈さんも昔は怒ってたけど、名前さんが妹宣言したからねー」



優「それからは玲奈も、珠理奈が名前に抱き付いても何も言わなくなったんだよ

玲奈と珠理奈と名前の三人が揃ったら、毎回必ずあぁなるから」



『二人共、もういい?

ってかそこ!

二人で勝手に飲み直すなっ』



ゆりあちゃんに説明してる間も、二人はコップを片手にまた飲み始めてた



優「だったら名前もこっち来て飲みなよ」



『えー…まぁ明日休みだからいいけどさー……

ってかつまみ無しで飲んでるの?』



明「途中まではあったんですけど、全部無くなったんです」



『……仕方ない、何か作ってくるよ

玲奈手伝ってくれる?』



玲「いいよ

けどもう遅いから、カロリー高いのはヤダ」



『カロリー気にするなら飲むなよ』



そんな事を言いながら、二人でキッチンに向かった
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