短編集02

□大好き
1ページ/5ページ



玲「………話しって何?」



今、私達はレッスン場に居る



レッスンが終わった時、珠理奈に話しがあるから残って欲しいって言われたからだ



珠「あのね玲奈ちゃん……

あたし、玲奈ちゃんの事が好きなのっ」



玲「………っは?!」



珠「玲奈ちゃんが名前ちゃんと付き合ってるのは知ってるんだけど、やっぱり諦められなくて…

別に付き合って欲しいとか、そう言うんじゃないから

ただあたしの気持ちを知ってて欲しいだけだから」



そう言ってレッスン場を出て行こうとする珠理奈に声を掛ける



玲「いいよ」



珠「っえ?!

いやいやいや、だって名前ちゃんは?!」



私の言葉に元々大きい目をさらに大きくして驚く珠理奈



玲「名前ちゃんとは別れるよ」



珠「っえ?!

いや、あたし別にそんなつもりは……」



玲「じゃあどうして好きなんて言ったの?

少しは付き合えるかもって期待してたから、告白したんじゃないの?」



珠「それは…そうだけど……

でも別れて欲しいとは思ってないよ」



申し訳なさそうにそう言うと、珠理奈は俯いてしまった



玲「元々ね、そろそろ別れようかなって思ってたの」



私の言葉に、珠理奈は戸惑ってるようだった



だけどそれも無理ないか…



玲「あのね珠理奈…

私珠理奈の事、名前ちゃんと別れる口実にしようなんて思ってないよ?」



珠「……ホントに?」



玲「うん

だって私、珠理奈の事好きだし

もちろんメンバーとしてじゃなくて、凄く特別な意味でね」



珠「玲奈ちゃんありがとっ

大好きっ」



抱き付いて来た珠理奈を受け止めて、そっと抱き締める







珠「ねぇ玲奈ちゃん…

どうして名前ちゃんと別れるの?」



二人で並んで座ってると、珠理奈がこんな質問をしてきた



玲「どうしてって?」



珠「だって名前ちゃん、あんなに優しいじゃん

だから玲奈ちゃんが別れたいって思う理由が分からないの」



玲「うーん……

その優しさが嫌なの

名前ちゃんは優しすぎるから…」



珠「優しすぎるから嫌って…」



玲「贅沢だって言いたいの?」



珠「うん…」



玲「でもね珠理奈…

何しても笑って許してくれるし、それどころか怒ってすらいないのって辛いよ?

女として見て貰えてないのかなってね……

それにね、何も言ってないのに私の思ってる事分かってるみたいに、先にしてくれるし」



珠「……どういう事?」



玲「例えばさ、私がお茶飲みたいなって思ったとするでしょ?

そしたらね、何も言わなくてもお茶をくれる訳

初めは分かってくれたんだって凄く嬉しかったんだけど、毎回それだとちょっとね……

たまには放っといて欲しいし、怒って欲しいし、もっとぞんざいに扱って欲しかったの」



珠「玲奈ちゃんって意外と強欲なんだね」



玲「幻滅した?」



そう言って珠理奈を見るとニコッと微笑んで、重ねてた手をギュって握られた



珠「幻滅なんてしないよっ

だって玲奈ちゃんの事、大好きだもんっ」



玲「ふふっ

ありがとう珠理奈」



そう言って珠理奈を見ると目が合う



珠理奈が目を反らさないから、自然に見つめ合う形になった



珠理奈の顔が近付いて来て、目を閉じた



そっと唇が重なると、心がギューって締め付けられた



これは、好きだって言ってくれた名前ちゃんを裏切る行為だから



だけど私はもう名前ちゃんにときめかない…



名前ちゃんと居ても、前みたいにドキドキする事もなくなった…



もちろん、そんなの名前ちゃんが悪い訳じゃない…



けどもうどうする事も出来ない…



だって今、珠理奈とキスして私…久しぶりにドキドキしてるから…



だから後戻りなんてしないし、後悔もしないつもり……



ー次の日



玲「……ごめんね、急に呼び出したりして」



『うぅん、大丈夫

私こそ待たせてごめんね』



名前ちゃんの仕事が終わるのを待って、二人で近くのカフェに入った



『玲奈この後撮影でしょ?』



そう言いながら私が座る椅子を引いてくれた



……こういうのも初めは凄く嬉しかったのにな…



玲「うん、だから10分くらいしか居れない」



『そうなんだ

あんま無理しないようにね』



そう言って優しく微笑んでくれたその顔も、自分だって忙しいのに私の身体を気遣ってくれるその言葉も、今の私には届かない



名前ちゃんが座るとすぐに店員さんが来て、適当に注文する



玲「名前ちゃんはこの後何するの?」



『私はこの後新幹線で東京だよ』



玲「仕事?」



『うん、番組のロケだよ』



玲「ふーん、そうなんだ」



店員さんが注文したのを持って来たから、一旦会話を切った



「ごゆっくりどうぞ」



店員さんが下がったのを確認して、話しを切り出した



玲「あのね名前ちゃん……

……私と別れて欲しい」



『え………?』



突然の事で話しが飲み込めてないのか、ポカンとした顔で私を見る



玲「ごめんね…」



『……理由は…?』



玲「……他に好きな人が出来た…」



私の言葉に酷く傷付いたような顔をして俯く



『……………』



玲「………………」



『…………

………分かった…』



長い長い沈黙の後、顔を上げた名前ちゃんがそう呟いた



玲「本当にごめん……」



『……謝らないで

本気でその子の事、好きなんでしょ?

だったら謝る必要なんてないよ

私より、その人の方が魅力的だった…それだけの事じゃん』



こんな時でさえ、名前ちゃんは私の事を想ってくれる



私が自分を責めないように、精一杯微笑みながらそんな事まで言ってくれる



こういう所が嫌だった…



普通ならこんな時怒るでしょ……



いきなり他に好きな人が出来たって言われたら、どうしてだって詰め寄っても良いくらいなのに



玲「……ごめんね名前ちゃん…

時間だから、私もう行くね…」



『そっか分かった…』



玲「……今までありがとう…」



最後に見た名前ちゃんの顔は、やっぱり笑ってた



けどいつもと違って目が赤かったし、笑顔だって無理に笑ってるのが丸分かりだ



……傷付いたならそう言ってくれれば良いのに



全く、この人はどこまで優しいんだろう……
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ