短編集02

□勘違い
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『で、私に何か用があるわけ?』



玲「用って訳じゃないんだけど……

……名前ちゃん、何か私に怒ってる?」



『何で?』



玲「だって……

昨日も何回も連絡したのに、全然返してくれなかったし……

今日も、何か避けてる感じだったから……

私、名前ちゃんに何かしたかな?」



玲奈は本当に分からないみたいで、困った様に眉を下げて私を見た



『玲奈さ、昨日何してたの?』



玲「昨日?

昨日は朝から新幹線で東京に行って、一日お仕事してたよ?」



『仕事って、何の?』



玲「収録だよ」



『一人で?』



玲「うぅん、珠理奈も一緒だったよ」



『何の収録だったの?』



玲「普通にテレビの収録だよ

名前ちゃんどうしたの?

さっきから何が言いたいのか分からないよ」



そう言いながら伸ばして来た手をかわして、冷たい目で玲奈を見る



『何で嘘つくの?』



玲「嘘なんか『ついてるじゃん

昨日、玲奈に仕事がなかった事くらい知ってるんだよ』



玲「だから、それはこの前も言ったじゃん

オフだったけど、急にお仕事が入ったって」



『だったら昨日、どこで何の収録してたか言ってみてよ

今すぐ確認取るから』



そう言ってポケットから携帯を出すと、玲奈は黙って俯いてしまった



『ほら…言えないじゃん

何で嘘なんかつくんだよ……

昔付き合ってたから、ヨリでも戻したのかとか…色々疑うじゃん……』



そう言って俯くと、玲奈の手がそっと私の頬に触れる



玲「ごめんね名前ちゃん…

けどね、珠理奈とはもう本当に何でもないんだよ?

私が好きなのは名前ちゃんだけだから」



『なら何で嘘なんかついたの?』



玲「それは…その……」



『……分かった、もういい』



口ごもる玲奈に胸がギュッと締め付けられて、玲奈の手を払い退ける



玲「名前ちゃん…

違うの…これにはちゃんと訳があるの」



それでも伸ばしてくる玲奈の手をパシっと叩く



『触らないでっ

何が違うの?!

珠理奈と出掛ける事隠して、嘘までついて、おまけに嘘ついた理由は話せないって……

それなのに珠理奈とは何にもないって、そんなの信じれる訳ないじゃん』



声を荒げる私を、いきなり玲奈が抱き締めてきた



『離してっ

玲奈の話しなんて聞きたくないっ

玲奈なんて大嫌いだっ』



腕の中で暴れる私を、更にギュッと抱き締める玲奈



玲「お願い名前ちゃん……

少しだけ、私の話しを聞いて?」



私の事を強く抱き締めたまま優しく諭すようにそう言う玲奈に、抵抗をやめた



玲「ありがとう

私が名前ちゃんに嘘ついて珠理奈と二人で出掛けた事は、本当に悪いと思ってる…ごめんなさい……

けどね…珠理奈とヨリ戻したとか、そんな事はないし、珠理奈に特別な感情を持ってるなんて事もないの

それは信じて欲しいな……」



『……分かった』



玲奈の腕の中で小さく頷くと"ありがとう"って、優しく頭を撫でられた



普段と立場が逆だし、こんな事されたのは初めてだったから何だか少しくすぐったい



玲「私が黙ってたのはね、名前ちゃんに喜んで欲しかったからなの……」



玲奈が嘘をついた事と、私に喜んで欲しかったって理由が、なかなか結びつかない



玲「……あのね、もうすぐ私達が付き合い始めてから1年が経つでしょ?

だから何かしたくて考えたんだけど、何も思いつかなくて……

で、珠理奈とかちゅりとかに相談したの

そしたらね、ちゅりに名前ちゃんがディズニーのグッズが欲しいって言ってたって聞いたから……」



そう言えば、確かこの前ちゅりとそんな話しをしてた気がする…



けどそのグッズが期間限定で、期間中に行けないって事も話したような……



玲「でね、珠理奈が昨日オフで付いて来てくれるって言ったから、一緒に行ったの

それに、付き合って1年の日までに行ける日って昨日しかなかったから…

けどサプライズで渡したかったから、お仕事だって嘘ついちゃったの……」



『そっか……

疑ったりしてごめん

それから勢いとは言え、大嫌いだって言った事も…ごめん』



玲「うぅん、それは私が嘘なんてつくから悪いんだし

まして相手が珠理奈なら、名前ちゃんが不安になるのも当然だもん

不安にさせてごめんね」



そう言って今度は優しく抱き締めてきたから、私もそっと玲奈の背中に手を回した



『もういいんだ……

不安になったけど、理由も分かったし…玲奈が私の事、ちゃんと想ってくれてるって事も分かったし』



玲「うん…

私が好きなのは、名前ちゃん一人だけだよ」



『ありがとう玲奈

それから、ごめん…』



玲「もう謝らないで?

誤解させるような事したのは私なんだし……」



『私、玲奈が好きだ…

玲奈が他の人と居るだけで冷静じゃいられなくなるくらい、玲奈が好きなんだ…』



玲「うん、ありがとう…

私もね、名前ちゃんが他の人と楽しそうにしてると、凄く不安になるし、相手の子に凄く嫉妬しちゃう

メンバーだって分かってても嫌だし、二人の間に割り込みたくなるし、名前ちゃんは私のだって独り占めしたくなる

私がこんな気持ちになるのは、名前ちゃんにだけだよ」



玲奈の言葉に、少し身体を離して玲奈を見つめる



『玲奈……』



ゆっくりと玲奈との距離を詰めて行くと、玲奈が目を閉じた



『愛してる』



玲奈の薄い唇に、優しく口付けを落とす



ゆっくり唇を離すと目の前に玲奈の幸せそうな顔があって、それを見てると胸が暖かくなった



本当に大好きだなって、改めてそう思った



玲「私ね、明日お仕事午後からなの

だからね……今日、名前ちゃんのお家行ってもいい?」



『うん

私も明日は昼からだし、問題ないよ

ってか明日同じ仕事でしょ?』



おずおずと聞いてきた玲奈にそう言うと、私の腕の中で嬉しそうに笑った



玲「うん、同じ仕事だよ

一緒に行けるね」



『そうだね』



嬉しそうに抱き付く玲奈の頭を優しく撫でると、甘える様に私の胸に頭を擦り寄せてくる



『戻ろっか?』



玲「うん」



玲奈を離して出口に向かうと、後ろでもじもじして動こうとしない



『どうしたの?』



振り返ってそう聞くと"ん"って手を出して来た



『そう言う事……』



差し出された玲奈の手を取って、再び出口に向かって歩き出した



『そうだ……

にしし待たせてるんだった』



玲「お買い物行くんだよね?

なら私その辺で時間潰してるから、終わったら連絡して?」



『んー……

いいや、楽屋帰ってにししに謝るっ

今日は玲奈と居たいし』



玲「名前ちゃん……

大好きっ」



満面の笑みで私の腕に抱き付いて来る玲奈を、そっと撫でてまた歩き出す



雑誌やテレビなんかじゃ見れない、私だけに向けてくれるこの笑顔が何よりも好きだ



大好きだからこそ、不安になるし、自信を無くしたりもする



だけど、その度に何回だって話し合おう



根気強く話し合えば、分かり合えない事なんて何一つないんだから



だって私達は、こんなにも想い合ってるんだから
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