赤い涙**
□VI
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「初めから女性の姿に変装する、とレイラ様に仰っていれば良かったものを…坊ちゃんが頑なに連絡をしなかったからこの様な事態を招いているのですよ」
「こんな格好をすると思わなかったからだ!この姿を見られるくらいなら死んだほうがマシだ!とにかく絶対に…」
小声で棘を刺してくるセバスチャンをキッと睨むシエル
だが、この後二人の顔つきが一瞬にして変わることになる
「ドルイット子爵は今日も美しくいらっしゃるわぁ」
「プラチナブロンドが金糸のよう!」
近くにいた貴婦人が黄色い声を上げる
彼女たちの視線の先には、パーティーの主催者の子爵。
「あれが…ドルイット子爵…!!!」
「結構お若いんですね…」
ほお、とセバスチャンが子爵を見る中、シエルはすぐさま行動に移った
「僕は挨拶するふりして近づく」
指で合図を交わし、シエルは立ち上がった
「男がいては警戒されやすいでしょうから私はここで見ています。教えた通りしっかり淑女演じてくださいね」
セバスチャンの言葉にげんなりしながらシエルはコクン、と頷く
そして恐る恐る近づくとセバスチャンに習った通り、ドレスの裾を持ち上げ小さく礼をした
「こ…こんばんは」
できるだけ可愛らしい声を絞り出し、精一杯の笑顔を作る
「ドルイット子しゃ「あーーーーーっいたーーーーっ♡」
またしてもエリザベスに見つかり、シエルは身を強張らせる
しかもエリザベスの隣にはレイラもいる
「くそっ」
子爵との接触を諦め、シエルはドレスを持ち上げまた走って逃げることに
慣れないヒールでおぼつかない足取りだが、いつの間にかついてきていたセバスチャンに手を引かれ、なんとかエリザベスからの追跡を振り切った
「……あれは……セバスチャン…???」
それを、レイラに見られていることは知らずにーーー
*********
その数分後ーーーーーーーー
シエルは渋々セバスチャンとダンスをし、見事二人の元へやってきた子爵との接触を成功させるのだった
「ーーーー素晴らしい。駒鳥のように可愛らしいダンスでしたよ、お嬢さん」
向こうから声をかけて来たことに驚く二人
「お嬢様、私は何かお飲物を」
セバスチャンがシエルに目配せし、さりげなくその場を去っていく
「ぁ、えっと…お褒めに頂き光栄ですわ」
どこかぎこちなさを残す挨拶を交わすシエル
子爵はそんなシエルを見てクスッと小さく笑みを漏らした
「本日は誰といらしたのかな?駒鳥さん」
挨拶代わりというように、手に口付けをする子爵
シエルはじょわっと鳥肌を立てたが、マダムレッドに言われた通りに言葉を返す
「ア、アンジェリーナ叔母さまに連れてきて頂きましたの」
「マダム・レッドの?そうか…楽しんで頂けてるかな?」
「素敵なパーティーに感動しています…………でも」
シエルはそこで一旦言葉を止めると、その顔に悪戯っぽい微笑みを浮かべた
「私ずっと子爵とお話したかったの」
ニッコリと微笑むシエルは、誰が見てもただの可愛らしい少女だ
子爵はシエルをジッと見つめている
「ダンスもお食事も飽き飽き」
ニヤリと薄く形のいい唇を歪める子爵
さりげなくシエルの腰に手を添えれば、いやらしく指を這わしていく
「わがままなお姫様だね、駒鳥……もっとたのしいことをご所望かい?」
ぞおおおおっ
(ガマンだ!ガマンしろ僕!!)