渇き**


□two days
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杏菜の手をパシッと抑えていたのは




真っ赤な髪の




男の子












「……っ、か、カルマ君…っ」

先ほどまでの怒りで歪んだ顔から、驚愕の表情に変わる杏菜

口をパクパクさせ、後ろにいるカルマを呆然と見つめる




「……………誰?」



驚いて黙り込んでしまう取り巻きと杏菜を見て、リナは空気も読まず首を傾げた


カルマと呼ばれた男子生徒は、チラッとリナを横目で見ると、掴んでいた杏菜の手を離す






「…ま、やるんなら場所変えてよ。ここ俺のテリトリーね?」

カルマがそう微笑むと、杏菜は少し頬を赤く染めながら「うん」と大人しく頷いた





(態度豹変…さすが女ね)

男を前にして態度をコロッと帰る杏菜を見て、すこし感心してしまう


自分はあんな人間になりたくないなー、と心の中で思いながらリナは去っていく女子集団の後ろ姿を見つめる







「…で、あんたは怪我、大丈夫なの?」

「え?」




カルマがリナの腫れた頬を指差す

怪我?と一瞬きょとんとするリナだったが、先程の平手打ちのことだと納得して黙って頷いた




「うん、ちょっと叩かれたくらいだし。問題ないでしょ」

「腫れてんじゃん、保健室行って湿布貼ったほうがいいよ?綺麗な顔が台無しじゃん」





ーーーー綺麗な顔

腐る程聞いてきた単語に、リナは小さく笑った







「綺麗な顔…かあ」

腫れた頬に手を当て、自嘲気味に笑いながらリナは言葉を吐き捨てた






「いっそなくなってしまえばいいのに」

「……」





壁に背を預け、目を伏せる姿を、カルマはじっと眺めていた






「神田さんって…噂で聞くほど酷い人じゃなさそうだね」


カルマが真顔でそう言うと、リナはえ?と大きな目をさらに見開かせる


「色々流れてるでしょ。神田さんの噂」






そう

リナには数々の噂がある



実はヤリ手だの

ヤクザと付き合っている、や

援助交際している、なんて根も葉もない噂まで流されている次第だ





もちろん根も葉もない嘘だが、いちいちリナはそれを否定しようともしないので、今じゃこの椚ヶ丘高校のみならず他校にまでその噂が広まっているらしい


おかげで街に出れば色んな人から指をさされ、噂を口にされた




「…まあ、噂ほど私はぶっ飛んじゃいないけど…」

「ふーん」



カルマはリナを上から下まで見定めるように眺めると、どこか気の無い返事を返す


「とにかく、助けてくれてありがとうね、流石にグーパンは平手打ちより痛そうだったし………えーと、名前は…」

「赤羽カルマ」



カルマは淡々と名前だけを口にする








「そう、カルマ君ね。」


リナはニコッと笑顔を見せる

この笑顔一つで、どんな男も彼女に心を奪われた


この人もそうなのかなー、と興味本位でやってみる









リナにとっては、人に好意を寄せられるということは当たり前で

自分に惚れさせる事なんて簡単なゲームのような感覚でやっていた










「俺さあ…神田さんのその胡散臭い笑顔、嫌いなんだよねー」





思いがけない言葉が




リナに降りかかってくるのだった
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