ヒソカ夢

□一次試験
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《ジリリリリリリリリリリリリ……》
地下道内に響いたベルの音に、集まっている受験生の視線が集中した。ベルの持ち主は、パイプの上にいるスーツを着た男性。その男性を見つめていると、背後からヒソカに抱き締め直された。
「ボク以外の男を見つめるなんて、妬けるな♣」
「はいはい、試験終わるまでは我慢しなさい」
子供を宥める親の様に、腰に回されたヒソカの腕を優しく叩くナマエ。

やがてベルが鳴り止み、持ち主の男性が話しだした。
「ただ今をもって、受付時間を終了致します。では、これよりハンター試験を開始致します」
スーツ姿の男性は、立っていたパイプから音もなく地面へと降り立った。
「こちらへどうぞ」
地下道の奥を手で指し示しながら、男は歩き出した。
「さて、一応確認致しますが、ハンター試験は大変厳しい物もあり、運が悪かったり実力が乏しかったりすると、ケガしたり死んだりします。先程の様に、受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々御座います。それでも構わない――という方のみ、ついて来て下さい」
男性の言葉に、誰一人引き返しはしない。皆、男性の後を黙ってついて行っている。辺りは受験生達の歩く足音が木霊していた。
「承知しました。第一次試験、404名全員参加ですね」
男性はそれだけ言うと、歩幅を広げて歩き出した。
ただ歩幅を広げただけなら良いが、コンパスの違い以前の問題となりナマエは小走りになっていた。
「ちょっ……いくらなんでも速くない?」
やがて小走りから普通に走る事となったナマエ。
「ボクが抱っこしてあげようか?」
「要らない。自分の力だけで合格しなきゃ意味ないし」
走りながらも、ナマエはヒソカの問い掛けにきちんと応えた。
「申し遅れましたが、私一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内致します」
周りの受験生達は、皆疑問符を浮かべていた。
「二次……?って事は一次は?」
「もう始まっているので御座います。二次試験会場まで私についてくる事。これが一次試験で御座います。場所や到着時刻はお答え出来ません。ただ私について来て頂きます」
試験官を名乗る男性:サトツは、尋常ではない早さで歩を進めているが走ってはいない。彼はただ歩いているだけだ。しかし、受験生は一部を除いて皆全力で走っている。
3時間以上走り、60km地点を通過したが脱落者は未だに出ていない。

約6時間走り、80km走った所で漸く1名の脱落者が出る。
しかし、目の前に現れたのは先の見えない上り階段。ナマエは息を呑んだ。
「さて、ちょっとペースを上げますよ」
言うが早いか、サトツは普通に歩く感覚で階段を2段飛ばしで登っていく。
受験生は皆必死に後を追いかけているが、ナマエの隣にいるヒソカは涼しい顔で走っている。
「疲れたかい?」
「まだ大丈夫。【白夜(ビャクヤ)】のシゴキに比べたら、まだまだ甘い」
そうは言っても、ナマエの息は上がってきていた。上を飛んでいる【十六夜(イザヨイ)】はそれを見て、心配そうに小さく鳴いた。
「心配してくれてるの?【十六夜】、まだ大丈夫だよ」
【十六夜】を見て、優しく笑いかけてやるナマエ。自身に向けられたソレではない事に、ヒソカは少しだけ嫉妬していた。
階段を登り続けていると、やっと地上への出口が見え始めた。地上への階段の中間地点、ここで脱落者が37名出た。

やっとの事で地上に出ると、そこは薄暗い湿地帯だった。
「ヌメーレ湿原。通称“詐欺師の塒”。二次試験会場へは、ここを通って行かねばなりません。この湿原にしかいない珍奇な動物達。その多くが人間を欺いて食料にしようとする、狡猾で貪欲な生き物です。十分注意してついて来て下さい。騙されると、死にますよ」
サトツが地上へ出てきた受験生に向かって注意をしていると、地下道と地上を結んでいる階段の扉が閉まった。
「この湿原の生き物は、ありとあらゆる方法で獲物を欺き捕食しようとします。標的を騙して食い物にする生物の生態系……“詐欺師の塒”と呼ばれる所以です。騙される事の無い様、注意深くしっかりと私の後をついて来て下さい」
サトツが注意を言い終わると、突然階段への道の影から何かが叫んで出てくる気配がした。
「ウソだ!!そいつはウソを吐いている!!そいつはニセ者だ!!試験官じゃない、オレが本当の試験官だ!!」
サトツを指差し、出てきた男はなおも叫ぶ。
「ニセ者!?どういう事だ!?」
「じゃ、こいつは一体……!?」
「これを見ろ!!ヌメーレ湿原に生息する人面猿!!」
男が死んでいるであろう人面猿を前に出すと、多くの受験生が息を呑んだ。
「あの男……人間の臭いがしない――むしろ、あの猿と同じ臭いがする」
「へェ……♣分かるのかい?」
「これでも獣の臭いには敏感でね。判るんだよ、人間と獣の臭いの違いは」
ナマエは呟くと、男を睨みつけた。
「人面猿は新鮮な人肉を好む。しかし、手足が細長く非情に力が弱い。そこで自ら人に扮し、言葉巧みに人間を湿原に連れ込み他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするんだ!!そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!!」
「……自己紹介乙」
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