クロロ夢

□習得
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ドラゴンとなったハヤテの背に乗りながら、ナマエは思考を巡らせていた。
四大精霊の“力”を借りることに成功はした。だが、これから先のことなど何も考えてはいなかったのだ。
「さっきから難しい顔をしてどうしたんだ?」
「へ?」
「ココ、皺が寄ってる」
そう言いながら、クロロはナマエの眉間を指差した。
「ん?あぁ……ちょっと考え事を、ね」
「考え事って――何?オレに言えないような事?」
「そういう訳じゃ無いんだけど……」
「じゃあ、教えてよ」
「大方、これから先の事でも考えていたんでしょう?お嬢様ァ」
ナマエを問い詰めようとしているクロロの声に答えたのは、クスクスと笑うハヤテだった。
「そんな事、一々考えてたら埒が明きませんよォ?」
「うっさいな!ハヤテに言われなくても解ってるよ!!」
「?」
「解っているのでしたら、そんなに考える必要は無いでしょう?答えは1つしかないんですからねェ」
ナマエとハヤテの会話について行けないクロロは、2人の会話に疑問符を浮かべる事しか出来なかった。
そんな時間がどの位続いただろうか。やがてナマエはクロロに向き合って口を開いた。
「あのさ……」
「ん?」
「これ以上アンタを――クロロを連れて行けない」
「……理由は?」
「……」
「オレが納得出来る理由を言ってくれ。それが出来ないのであれば――オレはお前が何と言おうと付いて行く」
「……コレは【Fate(フェイト)】と“魔女”達との戦いだ。無関係な“人間”を巻き込む事は出来ない」
「フッ……くだらんな」
「くだらないと思われてもいい。だけど――」
「だけど、なんだ?ここまで来たんだ。オレはもう“無関係”じゃない。お前を“護る”ための“力”も与えられたんだ。いい加減、少しはオレを信用してくれてもいいんじゃないか?」
真っ直ぐにナマエの目を見据えながら、クロロは己の考えを口にする事を止めなかった。
「オレはお前を……ナマエを護りたい。例えそれで死ぬ事になろうが、オレは後悔しない。いや……ナマエを独りで行かせる事の方が後悔する」
「でもっ――」
ナマエが言葉を続けようとするも、それは叶わなかった。
「惚れた女を……危険だと判っていて独りで行かせる程、オレは弱くない」
直ぐに離れたソレは、今までと違って嫌な感じはしなかった。むしろ、もっとそうしていたいとさえ思えていた。
「これはこれは……お嬢様の負けですねェ」

ナマエ達が“家”に帰り着いた頃には、辺りは白み始めていた。
そんな時間だというのに、ミヤビやカゲロウ達は外まで出迎えに来てくれた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「その様子だと……クラーケンの協力を得られたようだな」
「あぁ、なんとかね」
わしゃわしゃと頭を撫でるカゲロウに、ナマエははにかんだ。
その様子を見たクロロは、面白くないという思いを隠さずに顔を顰めていた。
「おやおや……随分と物騒なオーラを放ちますねェ」
「フンッ……お前には解らないだろうな。惚れた女が自分以外にあんなに無邪気な笑顔を向けているんだ。面白いワケがないだろ?」
「解りますよォ?これでも、お嬢様の事は本気でしたからねェ……」
目を細めながら、人型に戻ったハヤテはナマエを愛おしそうに見つめた。
「本気だった、だと?」
「えェ……少なくとも、ワタシは本気でしたよォ――昔からね。ですが……アナタはどうなんでしょうか?ただのお遊びにしては悪趣味としか言いようがない。一度“力”を与えておきながらこう言うのも可笑しな話ですがね、お嬢様の邪魔になるようであれば――ワタシはアナタを本気で排除しなければならない。それが先代との“約束”でもありますからね」
急に真面目な口調になったハヤテに対し、クロロは光を宿さない瞳で見つめ返した。
「確かに最初は興味本位だったのは認める。しかし――今は本気で手に入れたいと思っている。ここまで惚れた女は初めてなんだ。アイツが母親の仇を討ちたいというのであれば、オレは全力でそのサポートをするのみだ」
冷ややかな光を灯しているハヤテの目を真っすぐに見つめ返しながら、クロロはその瞳に一筋の光を灯し始めていた。
しばしそんなクロロの瞳を観察していたハヤテは、やがて1つの結論を導き出した。
「いいでしょう。ワタシは黙って見届けましょうかねェ。“人間”が我々“人外”相手に、その“象徴”たるお嬢様をどこまで幸せに出来るのか……さァて、楽しみですねェ」
いつの間にか飄々としたいつもの調子に戻ったハヤテの言動に苛つきながら、クロロは視線をナマエへと戻した。
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