クロロ夢

□獲物
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「今回のお宝はなんなの?団長」
とある廃墟にて響き渡った女の声。
“団長”と呼ばれたのは額に逆さ十字の入れ墨をしている男だった。
「今回は“物”じゃない」
「どういう意味だい?」
「今回の“獲物”は……【Fate(フェイト)】だ」
団長の言葉に、1人を除いてその場に居た者達は息を飲んだ。
「なんね?ソレ」
「フェイタンは知らないだろうね。最近になってから急激に人気が出てきてるバンドだよ」
「バンド?」
女にフェイタンと呼ばれた小柄な男は、その頭に疑問符を浮かべている。
「あぁ。ちょっと面白い奴でな……手に入れてみたくなった」
そう言うと、団長はニヒルな笑みを浮かべた。
「どうせ直ぐ飽きるだろうに……何でそんなに手に入れたくなったのさ?」
「お前も会えば解かるさ、マチ」
団長にマチと呼ばれた女は、理解出来ないといった表情を浮かべていた。

事は数週間前に遡る。丁度“仕事”を終えて護衛の団員を連れて街を歩いていた団長。そこに背後から声が掛かった。
「おや?団長じゃないか♥」
「……ヒソカか」
その声に団長が振り向くと、そこには眉目秀麗な男が立っていた。
「こんな所で何をしているんだい?」
ヒソカと呼ばれた男は、目を細めながら団長を見つめた。
「“仕事”が終わってな。暇潰しになるモノを探しているだけだ。お前こそ、今回の“仕事”に参加せずに何をしているんだ?」
飄々としている言動のヒソカに対し、団長は怒気を含んだ声で答えた。
「そんなに怒るなよ♣この街に面白い人が来ているって聞いてね♠青い果実だから見に来たんだよ♥」
「面白い人?青い果実って事は――」
「そうだよ♦【Fate】って知ってるかい?パクノダ♠」
ヒソカにパクノダと呼ばれた長身の女は、暫し思考を巡らせた。
「確か……最近流行りだしたバンドがそんな名前だったわね」
「そう♠ボクの目的は、その【Fate】がどれだけ熟したかの確認さ♦」
「ヒソカに目を付けられるなんて可哀想だね、そのバンド」
「酷いなァ、シャルナーク♣」
シャルナークと呼ばれた童顔の男は憐れむように声音を落としていた。
「そんなに面白いのか?そのバンドは」
ヒソカの青い果実になり得る能力を持ったバンドに、団長は興味を抱き始めていた。
「団長も見れば解かるよ♥」
「ふむ……」
「ちょっ、団長?!」
「まさか……」
「見に行くだけの価値はありそうだな」

それから数時間後。団長はパクノダとシャルナークを連れてヒソカとの待ち合わせ場所に来ていた。
「遅かったね、団長♣」
「アンタが時間通りに来るなんて……明日は槍でも降りそうね」
「辛辣なこと言うなよ、パクノダ♦」
「だって、本当の事じゃん。ヒソカはすっぽかすか遅刻が当たり前なんだし」
「そうだな。まさか時間より前に来ているとは思わなかった」
クツリと笑う団長に対し、ヒソカはニンマリと笑みを浮かべた。
「それだけ面白い逸材なんだよ、【Fate】は♥」

ヒソカの案内で向かったのは、【Fate】がライブをするという場所だった。
「……廃墟?」
「こんな所でライブをするの?」
「あァ、【Fate】のライブは独特でね♠一般人はあまりリアルで見ることは出来ないんだ♣」
「何故だ?」
「もうすぐ解かるよ♥」
それだけ言うと、ヒソカはどんどんと廃墟へ向けて歩を進めていった。
やがて廃墟の入り口に足を踏み入れようとした所で、妙な耳鳴りに襲われた。
「なんだ?今のは……」
「【念】による入場制限さ♥」
「入場制限だと?」
「そう♦だから一般人はあまり生で聴くことが出来ないのさ♣」
「理由は?」
「ボクもそこまでは知らないな♠ただ、“彼女”の歌を聴けばなんとなく解かるさ♣」
振り返ることもなく、ヒソカは淡々と答えながら廃墟の奥へと進んでいく。
団長達は黙ってその後を追った。
やがて開けた場所に着くとそこにはチラホラと人が居たが、その場に居る者全てが【能力者】だった。
出入り口からほど近い瓦礫に腰を落ち着けること数分。いきなり正面が眩い明かりで照らされた。
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