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□団長とクロロ
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「クロロってさぁ」
「ん?」
「すっごい自信家で俺様だよね」
読書中にいきなりナマエから掛けられた言葉に視線を上げると、彼女はマジマジとクロロの顔を見ていた。
「いきなりどうしたんだ?」
「いや、前から思ってたんだけどさ……なんでそんなに自信家で俺様でいられるわけ?」
さも不思議そうに見つめてくるナマエに、クロロは思案した。何故今の自分が在るのか、何故今更そんな事を訊かれるのかを。
「言葉にするのは難しいな……まぁ、自信がなければ蜘蛛のリーダーは務まらんし、俺様だと思われているのは昔からだしな」
苦笑交じりに答えたクロロの顔を見ながら、彼女はどこか納得出来ずにいた。
「ふーん……」
「自分から訊いておきながら、随分と薄い反応だな」
「いや、前にも言ったでしょ?団長モードのクロロは絡みづらいって」
真っ直ぐに自身の目を見つめてくるナマエの言葉に、クロロは初めて自分が団長として振る舞っている事に気付いた。
「ごめん。今のは完全に無意識だったよ」
慌ててナマエに謝るが、そんなクロロを見ても彼女の表情は変わらなかった。
「別にいいけどさ。クロロがそっちのが楽だっていうなら」
それだけ言うと、ナマエはクロロの部屋を出ていった。

「団長」
「なんだ?」
ナマエと入れ違いで部屋に入って来たマチに、クロロは視線を本に落としたまま返事をした。
「ナマエに何したの?」
「何の事だ?」
「フェイタン相手に暴れてるんだけど、ナマエ」
「は?」
マチの言葉に、クロロは漸く視線を本から上げて目を丸くした。
「何があったか知らないけど、フェイタン相手に暴れるような事してないだろうね?」
「オレが?ナマエに??」
「団長が何かしたから、憂さ晴らしに暴れてるんじゃないのかい?」
「……」
ナマエの機嫌を損ねる様な事をした覚えがクロロにはなかった。しかし、現にナマエは“あの”フェイタン相手に暴れているという。
「マチ、あいつはどこにいる?」
「外の広場だよ。まぁ、フェイタンは手加減してるみたいだから大丈夫だと思うけど」
「分かった」
パタンと本を閉じたクロロを視認し、マチはその場を去った。

マチに言われた広場に来ると、確かにナマエがフェイタン相手に暴れていた。
「何でワタシがお前の相手しないといけないね」
「しょうがないでしょ。他に相手してくれる人いないんだし――さっ」
【勾陳(こうちん)】を手に、無謀にもナマエはフェイタンへと向かって行く。
「団長、コイツ止めるね」
クロロに気付いたフェイタンがそう言うも、クロロは何が起こっているのか理解出来ずに呆然とその光景を見ていた。
「団長、聞いてるね?!」
イラつきを隠そうともせずに、フェイタンはクロロに問いながらもナマエの攻撃を軽くいなしていた。
「これは……どういうつもりだ?」
クロロはナマエに向けて声を掛けるも、彼女からの返答はない。
「コイツ、いきなり攻撃してきたよ」
「おい、止めろ!お前がフェイタンに敵うわけ無いだろ!!」
「……クロロには関係ないで――しょッ」
ナマエはクロロを見ることもなく、フェイタンに攻撃しながら呟いた。
そんなナマエの言葉が琴線に触れたクロロは、フェイタンへ攻撃を仕掛けた彼女の腕を無理矢理掴んで押さえ込んだ。
「止めろと言ったのが聞こえなかったのか?」
「団員じゃないんだから、別に問題ないでしょ?」
「そういう問題じゃない!フェイタン、お前はもう戻っていいぞ」
「じゃあなんだって言うの?私は強くなりたいからフェイタンを相手に選んだ。いけない?」
そっぽを向きながら言うナマエに対し、クロロは溜息を漏らした。
そんな様子を尻目に、フェイタンは何も言わずにその場を去った。
「強くなりたい?そんな必要はないだろ?」
「必要があるからやってるんじゃない」
「何故そんなに意固地になってるんだ?」
心底理解出来ないという声音で、クロロはナマエを問いただした。
そんなクロロの言葉に、ナマエは一拍置いて答えた。
「…るから」
「ん?」
「このままじゃ……蜘蛛の足手まといになるから…………」
「誰に言われたんだ?」
ナマエの言葉に、クロロは眉をピクリと動かしながら訊いた。
「誰に言われたとかじゃない……自分でそう思っただけ」
「ハァ……お前はそんな事考えなくていい。今のままで十分だ」
呆れた様に言うクロロに、ナマエは肩を落としてまた呟いた。
「こんなので満足してたら……私だって皆の役に立ちたい」
「役に立ちたい?今でも十分役に立ってるんだが?」
「自分で納得出来ないんだから、クロロは口出ししないで!」
そう言うと、ナマエはその場を立ち去ろうとした。
しかし、クロロはそれを許さなかった。
「逃げるのか?」
「……」
「オレから逃げるつもりか?」
「…………」
「返事をしろ」
「………………そう思わせてるのはクロロじゃない」
「どういう意味だ?」
「そのままだよ」
「もっと解るように説明しろ」
段々と苛つきながら、クロロはナマエの腕を掴む力を強めた。
「オレは言って貰わないとお前の考えは解らない。何がそんなに不満なんだ?」
「痛いから放して」
「オレの質問に正直に答えたら放してやる」
「……」
「どうした?黙り込む気か?」
「私にはクロロが理解出来ない」
「?」
「どうして団員じゃない私にまで団長として振る舞うの?どうして素のクロロとして接してくれないの?私が頼りないから?」
決してクロロの目を見ようともせずに、ナマエは続けた。
「素で接して貰えないなら、私も他の皆みたいに戦えるようにならなきゃいけないと思ってる。じゃないと――クロロが私から離れて行きそうだから」
ナマエの言葉に、クロロは一瞬目を瞠ったがすぐに声を殺して笑った。
「クククッ。なんだ、拗ねてたのか」
「笑い事じゃない!こっちは真剣なんだよ!?」
「そんな事、ナマエが心配する必要はない。オレは今のままのナマエが好きなんだ。だから、機嫌を直してくれないか?」
「だったら……」
「だったら?」
「私といる時位はその威圧的な態度を改めて」
真剣な眼差しで、彼女はクロロを見据えていた。
「悪かった。仕事以外でナマエの前では素でいるように頑張るよ。だから、もうそんな顔しないで」
クロロはナマエを抱き寄せると、優しい声で囁いた。
「今回はオレが悪かった。ごめん。だけど、次からはフェイタン達に八つ当たりする前にちゃんとオレに言ってくれないか?そうじゃないと、オレにはナマエの考えてる事が解らないから」
「……分かった。私こそごめん」
ナマエはそう言うと、クロロの胸に顔を埋めた。

「仲直りしたかい?」
「あぁ。面倒をかけたな、マチ」
「まったくだよ。ナマエの気持ちもちゃんと考えてやってよ、団長」
あの後ナマエを部屋に戻したクロロはマチに呼び止められていた。
「アイツといると、調子が狂うんだよ。オレの本質が解らなくなってな」
「そんなのナマエには関係ない事でしょ。せっかくくっついたと思ったらコレなんだから……これ以上ナマエに嫌な思いさせるようだったら、アタシが団長に制裁加えるからね」
それだけ言うと、マチはクロロと別れ何処かへと行ってしまった。
「せっかく認められたってのに、オレは何やってんだろうな」
苦笑しながら呟くと、クロロはナマエのいる部屋を目指し歩き出した。
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